短歌(5/21掲載)

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【斉藤 梢 選】


外出もままならぬ老いを支えいる短歌(うた)こそ自由な心の世界   石巻市南中里/中山くに子

【評】五句三十一音の短歌という詩型が、作者にとって大切なものであることを、この歌に知る。外出がなかなか難しい日々であっても、心を閉ざすことをせずに、思うという心の自由によって、作者は外の世界と繋がることができる。五月であれば、若葉青葉の木に寄り、その生命を感じ、自身の力とすることもできるだろう。だか、実際に木を見ることができなくても、想像することで、五月の風や、木を感じることができ、詠むことができる。表現するために言葉を探す時間は、心を見つめるかけがえのない時間でもある。


田圃道若葉に触れては笑む幼児(こ)達いとも愛らし皆たんぽぽ   石巻市湊東/三條順子

【評】作者が「いとも愛らし」と詠む、情景がよく伝わって、心が明るくなる。「若葉に触れて」と幼児のしぐさを表現することで、春という季節を共有することもできる。河野裕子に「たんぽぽのぽぽのあたりをそつと撫で入り日は小さき光を収(しま)ふ」の一首があるが、「たんぽぽ」は、その存在を詠みたくなる花だろう。「皆たんぽぽ」という見立てが秀。


疲れとる術ある我は幸せとペン持ち文字を並べ歌にす   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】詠むことが「疲れとる術」であると詠む作者。ペンを持って文字を書く行為によって得られる、心への栄養。文字を並べゆく苦労もあるだろうが、「幸せ」と感じる作者の歌を、これからも読みたい。


スタッフも後期高齢のお花見を押し花として心にとどむ   石巻市流留/大槻洋子

【評】今年の桜との一期一会の縁。上句に表わした現実であれば、なおさら心にとどめたい桜だと思う。作者の一途な思いがこもる「押し花として」。


遥かなる峰の雪解け水の旅里を潤し万物和ます   東松島市赤井/茄子川保弘

鵜が集い北上川が穏やかに春の日差しに水面(みなも)輝く   石巻市不動町/新沼勝夫

夕焼けの濃いところだけ舞台にし群がる白鳥車窓にながむ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

鈍色の海を温めて沈む日や津軽の海の漁火淡し   石巻市門脇/佐々木一夫

野も山も燃え立つような春紅葉父よ母よと語りかけたし   東松島市矢本/川崎淑子

物価高重い腰上げ土起こし狭庭に植えるトマト苗買う   東松島市赤井/佐々木スヅ子

散歩道学校帰りの子供等のあいさつ嬉し手を振り送る   石巻市あゆみ野/日野信吾

存分に里山飾り行く春や時節に慣らいお色直しへ   石巻市わかば/千葉広弥

雑草(くさ)取る手暫し休みて目を凝らす姫踊り子草風に乱舞す   石巻市蛇田/菅野勇

前世はたぶん家族だと言う人と続く文通六十余年   石巻市流留/和泉すみ子

三年ごし白根葵が子供連れ初めましてと頭を下げて   石巻市桃生町/千葉小夜子

五月晴頭上に轟音響きけり飛行機雲の淡く棚引く   石巻市三ツ股/浮津文好

春の朝おだやかな日の始まりは雲もゆっくり風もそよろと   東松島市矢本/畑中勝治

穏やかな川の流れや北上のまばゆい光川面に浴びて   石巻市桃生町/西條和江