【石母田星人 選】
漁(すなどり)を半ばで戻る初端午 石巻市中里/佐藤いさを
【評】誕生した男の子。初めて迎えた端午の節句。今日は親戚を招いて祝いの膳を囲む。漁も早々に切り上げて港へ戻る。エンジン音もいつもより軽やかだ。
鯉のぼり千の友ゐる空は青 東松島市新東名/板垣美樹
【評】初夏の空を悠々と泳ぐ青いこいのぼり。中七以下の表現が巧み。こいのぼりの数を表すとともに、犠牲になった子どもたちへの追悼の思いがこもる。
春あふれライオン山も背のびして 石巻市流留/和泉すみ子
【評】中七はライオンに似た山の通称なのだろう。のどかな春の日に包まれてライオンも大きな背のび。春は「山笑う」というが「背のび」もなかなかいい。
釈迦生るる日よ走り根の隆々と 石巻市相野谷/山崎正子
花菜風いざなふ先の浄土かな 石巻市丸井戸/水上孝子
春しぐれ縄文土器に焦げし痕 石巻市蛇田/石の森市朗
春の月磯の香りの強くなり 石巻市流留/大槻洋子
夏草の刈られて青き息を吐く 石巻市桃生町/西條弘子
初夏や神割崎に光刺す 東松島市矢本/雫石昭一
復興の岸辺散策春日傘 石巻市元倉/小山英智
若楓古都を見おろす天守閣 仙台市青葉区/狩野好子
ふるさとの友より便り躑躅咲く 石巻市小船越/芳賀正利
雄鳥と雌鳥がいて暖かし 石巻市吉野町/伊藤春夫
初蝶や親に指南の十八才 石巻市中里/川下光子
緑陰や奥入瀬の水くねくねと 石巻市中里/鈴木登喜子
たつぷりと水を引きたる夜の蛙 石巻市広渕/鹿野勝幸
へその緒は桐箱ふたつ昭和の日 石巻市開北/ゆき
蒼鷺の水面に写るS字かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
まんぼうや俺の海だと昼寝する 石巻市門脇/佐々木一夫
陽炎や巡航船の行く潮路 石巻市新館/高橋豊
春の夢漕いでも漕いでも岸遠く 石巻市渡波町/小林照子
病癒えいどむシャンソン柿の花 石巻市中里/鈴木きえ
線香花火じっと見つめる余生かな 石巻市桃生町/佐藤俊幸
すかんぽを摘みし畔道昭和の子 石巻市駅前北通り/津田調作
プランターの家庭菜園若葉雨 東松島市あおい/下山慶子