俳句(6/11掲載)

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【石母田星人 選】


能舞台出待ちの長き鼓草   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】待ちくたびれた太郎冠者。そんな姿を思ったが、待っていたのはたんぽぽの別名鼓草。鼓といえば能「天鼓」。鼓を奏でる舞の姿と綿毛の旅が重なる。


泥に笑む田植体験三年生   石巻市元倉/小山英智

【評】上五「泥に笑む」に注目したい。泥の中は、最初ぬるぬるだが慣れると気持ちがいい。その複雑な感触に興奮する内面を「笑む」だけで巧みに表した。


蘆焼や五百町歩の空焦がす   石巻市相野谷/山崎正子

【評】火入れは生態系のバランスを守り、水の浄化効果で魚介類を育む。炎と煙を見上げていた作者は、河原につながる大空も浄化されていることに気づく。


竹林の夏借景に蕎麦処   石巻市桃生町/西條弘子

濾紙を折る金婚の午後四月尽   石巻市小船越/堀込光子

海上は夢追うところ鑑真忌   石巻市中里/佐藤いさを

万緑のみどり児ミルク音立てて   石巻市広渕/鹿野勝幸

噴水やハーモニカ聴き踊り出す   東松島市新東名/板垣美樹

すりこ木や香り回して木の芽味噌   石巻市門脇/佐々木一夫

鯉幟水面の空を泳ぐなり   石巻市小船越/芳賀正利

竹落葉水琴窟の音を待つ   仙台市青葉区/狩野好子

たかんなの手応へ十分鍬の先   東松島市矢本/雫石昭一

巣立つ子と連れ立つ墓参水仙花   石巻市蛇田/石の森市朗

亀もゐる角の小鳥屋若葉風   石巻市中里/川下光子

藪蕨ゆっさゆっさと背負い来る   石巻市吉野町/伊藤春夫

亡き母に育てし母に聖母月   石巻市開北/ゆき

道の駅春山菜の香りかな   石巻市水押/阿部磨

木苺の花に誘はれ奥山へ   石巻市新館/高橋豊

長靴の泥洗ふ夫梅雨近し   東松島市あおい/大江和子

夏来る狩りのからすの大き影   石巻市流留/大槻洋子

目の奥に太平洋の卯波かな   石巻市流留/和泉すみ子

十薬の十字きりりと香を放つ   東松島市あおい/下山慶子

車窓から藤の花越し金華山   石巻市三ツ股/浮津文好

夏帯や着物一段格を上げ   東松島市矢本/奥田和衛

新緑の枝間を通る風嬉し   石巻市駅前北通り/津田調作