【石母田星人 選】
能舞台出待ちの長き鼓草 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】待ちくたびれた太郎冠者。そんな姿を思ったが、待っていたのはたんぽぽの別名鼓草。鼓といえば能「天鼓」。鼓を奏でる舞の姿と綿毛の旅が重なる。
泥に笑む田植体験三年生 石巻市元倉/小山英智
【評】上五「泥に笑む」に注目したい。泥の中は、最初ぬるぬるだが慣れると気持ちがいい。その複雑な感触に興奮する内面を「笑む」だけで巧みに表した。
蘆焼や五百町歩の空焦がす 石巻市相野谷/山崎正子
【評】火入れは生態系のバランスを守り、水の浄化効果で魚介類を育む。炎と煙を見上げていた作者は、河原につながる大空も浄化されていることに気づく。
竹林の夏借景に蕎麦処 石巻市桃生町/西條弘子
濾紙を折る金婚の午後四月尽 石巻市小船越/堀込光子
海上は夢追うところ鑑真忌 石巻市中里/佐藤いさを
万緑のみどり児ミルク音立てて 石巻市広渕/鹿野勝幸
噴水やハーモニカ聴き踊り出す 東松島市新東名/板垣美樹
すりこ木や香り回して木の芽味噌 石巻市門脇/佐々木一夫
鯉幟水面の空を泳ぐなり 石巻市小船越/芳賀正利
竹落葉水琴窟の音を待つ 仙台市青葉区/狩野好子
たかんなの手応へ十分鍬の先 東松島市矢本/雫石昭一
巣立つ子と連れ立つ墓参水仙花 石巻市蛇田/石の森市朗
亀もゐる角の小鳥屋若葉風 石巻市中里/川下光子
藪蕨ゆっさゆっさと背負い来る 石巻市吉野町/伊藤春夫
亡き母に育てし母に聖母月 石巻市開北/ゆき
道の駅春山菜の香りかな 石巻市水押/阿部磨
木苺の花に誘はれ奥山へ 石巻市新館/高橋豊
長靴の泥洗ふ夫梅雨近し 東松島市あおい/大江和子
夏来る狩りのからすの大き影 石巻市流留/大槻洋子
目の奥に太平洋の卯波かな 石巻市流留/和泉すみ子
十薬の十字きりりと香を放つ 東松島市あおい/下山慶子
車窓から藤の花越し金華山 石巻市三ツ股/浮津文好
夏帯や着物一段格を上げ 東松島市矢本/奥田和衛
新緑の枝間を通る風嬉し 石巻市駅前北通り/津田調作