俳句(6/25掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】


疵のこる離島に赤い松の花   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】湾内の島々が防潮堤の役目を担ってくれた。外洋に近いこの離島もその一つ。津波の疵と天を衝く松の赤い花。島が発する叫びが聞こえてくるようだ。


釣りの子の満面の笑み雲の峰   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】雲の峰は夏空に湧く入道雲の威容を山並みにたとえた言葉。その雲を背景に竿を担いだ子が来る。日焼けした顔と白い歯。釣れたのは大物に違いない。


サボテンの花の今宵を誰彼に   石巻市桃生町/西條弘子

【評】種類にもよるが、年に1日だけそれも数時間だけ花を咲かせるサボテンがある。この花もそうなのだろう。みんなを魅了した圧巻の美しさが見える。


夏祭り囃子流るる肩車   東松島市矢本/雫石昭一

鎮魂の枇杷を供へる月命日   石巻市恵み野/森吉子

十二年忘れたふりの夏の凪   石巻市渡波町/小林照子

くるくるとパン生地まるめ富貴草   東松島市新東名/板垣美樹

鉄線の花ののこり香まはす風   石巻市丸井戸/水上孝子

日雀山雀鎮守の森をふくらます   石巻市相野谷/山崎正子

帰りきて星座図鑑の朧の夜   石巻市流留/大槻洋子

傍に憂きこと置きて草を引く   石巻市広渕/鹿野勝幸

どこまでも軌跡描きて夕螢   仙台市青葉区/狩野好子

六月やインクの匂ふ新刊書   石巻市小船越/芳賀正利

旅に出て三百段の立夏かな   石巻市中里/川下光子

燈台や遠くに霞む金華山   石巻市吉野町/伊藤春夫

しげしげと初めての靴バラの庭   石巻市小船越/堀込光子

亡き人にうしろの正面五月闇   石巻市開北/ゆき

踏切に待つや頬打つ初夏の風   東松島市矢本/菅原れい子

何かある青年薔薇の束抱え   東松島市あおい/下山慶子

行く春や新しき橋二本でき   石巻市新館/高橋豊

尾をつかみ漁師のさばく初かつお   東松島市あおい/大江和子

寝返れば猫のぬくもり梅雨寒し   石巻市元倉/小山英智

五月雨に濡れつつ帰る家路かな   石巻市三ツ股/浮津文好

通勤の自転車のりて海霧ぬけて   石巻市流留/和泉すみ子

六月や夫の命日稲荷寿し   石巻市中里/鈴木きえ