【石母田星人 選】
疵のこる離島に赤い松の花 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】湾内の島々が防潮堤の役目を担ってくれた。外洋に近いこの離島もその一つ。津波の疵と天を衝く松の赤い花。島が発する叫びが聞こえてくるようだ。
釣りの子の満面の笑み雲の峰 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】雲の峰は夏空に湧く入道雲の威容を山並みにたとえた言葉。その雲を背景に竿を担いだ子が来る。日焼けした顔と白い歯。釣れたのは大物に違いない。
サボテンの花の今宵を誰彼に 石巻市桃生町/西條弘子
【評】種類にもよるが、年に1日だけそれも数時間だけ花を咲かせるサボテンがある。この花もそうなのだろう。みんなを魅了した圧巻の美しさが見える。
夏祭り囃子流るる肩車 東松島市矢本/雫石昭一
鎮魂の枇杷を供へる月命日 石巻市恵み野/森吉子
十二年忘れたふりの夏の凪 石巻市渡波町/小林照子
くるくるとパン生地まるめ富貴草 東松島市新東名/板垣美樹
鉄線の花ののこり香まはす風 石巻市丸井戸/水上孝子
日雀山雀鎮守の森をふくらます 石巻市相野谷/山崎正子
帰りきて星座図鑑の朧の夜 石巻市流留/大槻洋子
傍に憂きこと置きて草を引く 石巻市広渕/鹿野勝幸
どこまでも軌跡描きて夕螢 仙台市青葉区/狩野好子
六月やインクの匂ふ新刊書 石巻市小船越/芳賀正利
旅に出て三百段の立夏かな 石巻市中里/川下光子
燈台や遠くに霞む金華山 石巻市吉野町/伊藤春夫
しげしげと初めての靴バラの庭 石巻市小船越/堀込光子
亡き人にうしろの正面五月闇 石巻市開北/ゆき
踏切に待つや頬打つ初夏の風 東松島市矢本/菅原れい子
何かある青年薔薇の束抱え 東松島市あおい/下山慶子
行く春や新しき橋二本でき 石巻市新館/高橋豊
尾をつかみ漁師のさばく初かつお 東松島市あおい/大江和子
寝返れば猫のぬくもり梅雨寒し 石巻市元倉/小山英智
五月雨に濡れつつ帰る家路かな 石巻市三ツ股/浮津文好
通勤の自転車のりて海霧ぬけて 石巻市流留/和泉すみ子
六月や夫の命日稲荷寿し 石巻市中里/鈴木きえ