【石母田星人 選】
若竹の伸び代の空開けてある 石巻市桃生町/西條弘子
【評】伸び代は成長の余地や可能性の意で使われる言葉。国語辞典への採用は平成に入ってからだ。その新語を柔軟に使った「伸び代の空」の表現が絶妙。
世界中走るニュースや簾越し 石巻市中里/上野空
【評】軒先につられている簾(すだれ)。内と外との境界線にありながら向こうを伺うことができる存在だ。多くの出来事が走るのは向こう側。こちらはとても静かだ。
指先で地球を廻す百日紅 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】百日紅(さるすべり)は春以降伸びた枝の先に花をつける。重そうな花が細い枝をしならせている。その光景から「指先で地球を廻す」の詩情豊かな表現が生まれた。
耳老いていつも遠雷ばかりなり 石巻市中里/佐藤いさを
夏の夜の棚田に光る水鏡 東松島市矢本/雫石昭一
花うばら島から島へ架かる橋 石巻市中里/川下光子
縄文の磯にも高き卯波寄す 石巻市小船越/芳賀正利
地下道の塒飛び立ち夏燕 仙台市青葉区/狩野好子
夢のごと千の山百合ゆるる谷 石巻市小船越/堀込光子
箒目の波きらきらと青葉寺 石巻市相野谷/山崎正子
縦走や星を掴みて寝るテント 石巻市吉野町/伊藤春夫
軒忍吊るす皺の手短かけれ 石巻市門脇/佐々木一夫
民宿の手斧の跡や夏座敷 石巻市元倉/小山英智
色褪せしすだれの中に吾を見る 石巻市中里/須藤清雄
鯉幟風立つまでをひと睡り 石巻市蛇田/石の森市朗
寝息たてスマホはなさぬ昼寝の子 東松島市あおい/大江和子
六月のインクの匂ふ葉書かな 石巻市新館/高橋豊
ロボットのいきいき運ぶ苺パフェ 石巻市流留/大槻洋子
梅雨じめり朝のチャイムと木魚かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
装丁なき電子書籍や旱星 石巻市開北/ゆき
夏草とちから競べや老の腕 石巻市駅前北通り/津田調作
無機質な音白百合の開くとき 東松島市矢本/菅原れい子
風揺らぎロックリズムのハンモック 石巻市桃生町/佐藤俊幸
打ち水に土の匂いのたちこめり 石巻市流留/和泉すみ子
父の日や感謝をこめて大アーチ 石巻市水押/阿部磨