短歌(7/30掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【斉藤 梢 選】


霖雨の間白い蝶々が窓のぞく誰の使いかふと気にかかる   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】長く雨が続いていて、気持ちも塞ぎがちになりそうな時、その雨がひととき上がって、白い蝶が現れた。「間」は、この歌の場合、雨の晴れ間のことだと思う。蝶を詠んだ歌は多く、その存在は人の心を動かす。この一首は、白い蝶が「舞う」「飛ぶ」とは表現せずに、「窓のぞく」として、その様子を言い、擬人化することで、誰かの使いとして窓に寄るのでは、と詠む。「ふと気にかかる」この時に、心に浮かぶ親しき人たち。白い蝶と出会って、人を思う時間が始まる。


かたくりや二輪草など姿消し夏風わたる里山(やま)のうつろい   東松島市矢本/川崎淑子

【評】春の里山に咲いていた「かたくり」や「二輪草」の花を作者は実際に見て、その姿に心を添わせたのだろう。そして、季節は春から夏へ。里山に来てみると、夏の風がわたり山そのものも夏の装い。「里山( やま )のうつろい」の結句が作者の実感を伝えている。この一首には、四季を愉しむという思いがある。


推敲に推敲重ね詠む短歌言葉はいつか迷路に嵌る   東松島市矢本/高平但

【評】作者と同じような思いを抱いて、歌を詠んでいる人は多いと思う。短歌を作る時の苦悩は、言葉を選ぶことにある。本当に表現したいことは何かと、つきつめてゆくことは尊いこと。どうにかして迷路から抜け出すと、唯一無二の自身の歌が残る。


初蟬の鳴く声聞きて窓を開け早う来たなと蟬と向き合う   石巻市桃生町/千葉小夜子

【評】「窓を開け」という行為を詠んだところがいい。いつもよりも早い夏の到来を、初蟬の声に感じている作者。結句の「蟬と向き合う」の表現が独特。蟬と共に過ごす暑い夏がまた来た。


暗闇に稲妻走り雨激し蒼き紫陽花万華鏡なり   東松島市赤井/茄子川保弘

風光る空を大きく鳶がまうハードル低き幸せが良し   石巻市流留/大槻洋子

棚のもの一人で取りて部屋を去る四歳はわれを起こさぬ背丈に   石巻市開北/ゆき

さわやかな夏の夕べの静のなか補聴器に聞く風鈴の音   石巻市駅前北通り/津田調作

疲れ果て畑の不出来思いすぎ大谷ならばさっさと寝るか   石巻市桃生町/佐藤俊幸

庭隅に毛虫のような赤い虫どんな命の始まりだろう   東松島市矢本/畑中勝治

山鳩を遠くに聞きて急ぎ行く竹落葉道 歯科医へのみち   石巻市向陽町/後藤信子

梅雨晴れのそぞろ歩きの稲田道色鮮やかに立葵咲く   石巻市あゆみ野/日野信吾

お弾(はじ)きかささいなことと弾いては消化不良の時代(とき)を生きいる   石巻市湊東/三條順子

鮪漁終えて帰船の機械場に朝餉の匂い夜明けを知らす   石巻市水押/阿部麿

我がこころ銅のやうにも強くなれ踏みつけられても壊れぬやうに   石巻市駅前北通り/工藤幸子

道ばたの地蔵菩薩の足もとに菫ひと本そそと咲きたり   石巻市駅前北通り/庄司邦生

何気なく古いアルバム紐解けば田植姿のあの日の父が   東松島市矢本/奥田和衛

毎朝のカボチャの受粉楽しみに大きくなれよ美味しくなれよと   石巻市蛇田/菅野勇