俳句(7/9掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】


雨脚の弱くなりゆく木下闇   仙台市青葉区/狩野好子

【評】うっそうと茂った木立の暗がり。踏み込んで行くと強かった雨がやむ。見上げればそこには大きな老木の傘。木下闇(こしたやみ)の中の静寂と神秘を巧みに描いた。


山裾へつづく田毎の月涼し   石巻市相野谷/山崎正子

【評】暑さの中にいると涼しさに敏感になる。水や風ばかりでなく視覚や聴覚で感じる涼味もある。車で移動中の作者の目に、月が涼しさを訴えかけてきた。


白南風の生簀に跳ねる鱗かな   東松島市矢本/雫石昭一

【評】白南風(しらはえ)とは梅雨の明けた明るい空に吹く風をいう。いけすの餌やりの景だろうか。この句には魚の勢いとともに、梅雨明けの解放感が込められている。


万緑やダム湖見守る六地蔵   石巻市中里/鈴木登喜子

大堰の魚道を遡上さくら鱒   石巻市小船越/芳賀正利

夕焼けを海にまぶして漁師去る   石巻市中里/佐藤いさを

麦刈りの音の谺か伊達日和   石巻市桃生町/西條弘子

鏡から鏡へうつる立夏かな   東松島市新東名/板垣美樹

鈴蘭や修道院の固きドア   石巻市中里/川下光子

夏の月田畑にそっと子守歌   石巻市桃生町/佐藤俊幸

花菖蒲月皓皓と艶夜かな   石巻市門脇/佐々木一夫

そら豆やおたふく貌と豊聡(とよと)耳(みみ)   石巻市丸井戸/水上孝子

梅雨入りの被災の浜の駅ピアノ   石巻市流留/大槻洋子

夏のれん潮の香のせて風くぐり   石巻市流留/和泉すみ子

卯の花腐し次々続く世の不穏   石巻市渡波町/小林照子

人類の荒みゆく世や青田風   石巻市蛇田/石の森市朗

鴎連れ着けば仔鹿や金華山   多賀城市八幡/佐藤久嘉

夕凪や河畔の賑わい懐かしき   石巻市吉野町/伊藤春夫

梅雨明の制服眩し弾けおり   石巻市恵み野/森吉子

酌み交す傘寿の祝い夏座敷   石巻市元倉/小山英智

ルビ多き新会員簿若葉風   石巻市開北/ゆき

薫風にキャッチボールの父子かな   石巻市新館/高橋豊

梅落ちる小さき引力確かめて   石巻市中里/須藤清雄

鶯の幽く聴くや裏の山   石巻市三ツ股/浮津文好

遠雷を聞けば今日も歌日記   石巻市駅前北通り/津田調作