短歌(8/27掲載)

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【斉藤 梢 選】


孫達と山公園でかくれんぼう眠れぬ夜の瞼の裏に   石巻市蛇田/菅野勇

【評】お孫さんたちと公園でかくれんぼうをしたことを思い出している作者。この時の楽しい記憶は、ふいによみがえったのか、それとも引き寄せたのか。短歌は思いを収める器であるから、作者はこの夜の心の裡を残すように詠む。結句を「瞼の裏に」としたことにより、直接的には表現されていない心情が、じわじわと読者に伝わってくる。眠れぬ夜の心を温めるような、かくれんぼうの記憶。このように、記憶そのものが生きゆく力となることもある。


うしろから肩叩かるる同窓会渾名のままの友も老いたり   石巻市中里/佐藤いさを

【評】久しぶりの友との再会。うしろから肩を叩かれた後の、作者と友の様子が想像できる。「渾名のままの」は、長い年月を経ても友は友として、懐かしい存在であることを語っていて、お互いに老いたことを、しみじみと感じる作者がいる。同じ学び舎で過ごしたということが、作者と友を深く結んでいるのだろう。


つややかな丸(まろ)きを見れば漱がるるこの白ナスよ真夏日の朝   石巻市向陽町/後藤信子

【評】何に「漱がるる」のかと読者の心を引きつけて、四句で「白ナス」の存在を明かしている。この言葉の置き方が印象的で、感性豊かな作者なのだと思う。暑い8月の朝だけれども、白ナスの命から受け取るみずみずしい涼。季節を詠む一首。


ひまわりは陽に照らされて立ちつくす明るきものはなべて寂しき   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】陽に耐えて、明るく振る舞っているひまわりか。「立ちつくす」は、独自の捉え方。8月の光と影が、作者には見えているのだろう。明るさに潜む寂しさを感受して下句のように詠む。心にずっと残る下句。


暑き夜訃報を受けてふつふつと朝まで眠れぬ時を過ごせり   東松島市矢本/高平但

たよりなき紙でも鶴になりたれば遠くの国へと祈りは深し   石巻市開北/ゆき

大雨の被害のニュース見る度にあの日の出来事瞼に浮かぶ   東松島市矢本/奥田和衛

手をつなぎ地獄くぐって港まで引揚げの日の母は強かった   東松島市赤井/佐々木スヅ子

沙羅の花、五葉つつじに花水木白い花のみ津波に枯れて   石巻市流留/大槻洋子

電話口切る時いつも「そのうちね」会わずに三年今日も「そのうち」   石巻市羽黒町/松村千枝子

学期末の明日の試験を危ぶめる夢より覚めぬ八十路になれど   石巻市駅前北通り/庄司邦生

シュワシュワとグラスではじけるソーダ水真っ赤な顔のほてり静める   石巻市水押/佐藤洋子

ばあちゃんのうちわの風と子守唄眠れぬ夜のひとりお泊まり   石巻市駅前北通り/工藤幸子

凜と立つ捩花の姿に見惚れれば夏の夕べに明日の夢浮く   石巻市駅前北通り/津田調作

あじさいや「隅田の花火」の名の涼しやさしい雨待つあおの一鉢   石巻市湊東/三條順子

毎日の家事一切をひきうける夫に支えられ生きるわれなり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

道端の向日葵垂れる暑さなり山のステージ蟬の合唱   東松島市赤井/茄子川保弘

青空に白いパラシュート輝いて降下訓練次から次へ   東松島市矢本/畑中勝治