俳句(8/6掲載)

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【石母田星人 選】


母と聞きし艦砲射撃終戦日   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】戦後生まれが大半となり、戦争の体験を聞く機会が減った。平和を確かなものにするため体験談は大切だ。令和の今、戦後の一断面を語ってくれるのは当時の子供たち。戦いで人が死に、もっとも傷ついたのはその子供たちだ。5歳の作者が母のそばで聞いた艦砲射撃の記憶だ。同じはがきには<壕の蓋飛ばされ逃げし終戦日>の句も見える。この作者には毎年夏、貴重な体験を投句してもらっている。昨年の紙面では<引揚船の乾パンうれし終戦日>を取り上げた。


風薫る村の広場に力石   石巻市小船越/芳賀正利

【評】力比べに用いられた力石。各地に残っており200キロを超す石もあるという。この村でも力自慢がそろっていたのだろう。重い石と風との対比が巧み。


蝉の鳴く斎太郎節のこゑに乗せ   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】5年前の石巻かほく学習会の出席者が「津波からずっと心の中に斎太郎節が流れている」と語っていた。三陸の魂の歌は、蝉の心をも震わせるのだ。


レコードに微かなノイズ明易し   松島町磯崎/佐々木清司

【評】かすかな擦れや傷のノイズ。その音も含めて味わうレコード鑑賞。夜のイメージに通じる一枚なのだろうか。明け急ぐ夜を嘆いているように感じる。


津波碑をしばらく仰ぐ夏帽子   石巻市中里/佐藤いさを

悲しみと無縁の速さ夏つばめ   多賀城市八幡/佐藤久嘉

肩幅は父ゆうに越え雲の峰   石巻市開北/ゆき

夏雲や威風堂々孕み牛   石巻市蛇田/石の森市朗

川揺する夏の土用の蜆舟   石巻市相野谷/山崎正子

これよりは刻を寝かせて梅の酒   石巻市桃生町/西條弘子

種大き地物の梅を煮る夕べ   仙台市青葉区/狩野好子

早池峰の岩場の吾子に霧流る   石巻市流留/大槻洋子

久々の妣の微笑み蓮一輪   東松島市矢本/雫石昭一

北上川小舟ゆったり流し釣り   石巻市吉野町/伊藤春夫

浮草や雨と流れて川下り   石巻市門脇/佐々木一夫

白南風や演歌流るる屋台村   石巻市新館/高橋豊

音ひびき散るゆく火玉夏惜しむ   東松島市あおい/大江和子

白頭を蹴って飛び行く蝗かな   石巻市元倉/小山英智

羽抜鳥羽ばたく力艶残し   石巻市渡波町/小林照子

茄子苗を植えて待ちたる夏の色   石巻市駅前北通り/津田調作