【石母田星人 選】
母と聞きし艦砲射撃終戦日 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】戦後生まれが大半となり、戦争の体験を聞く機会が減った。平和を確かなものにするため体験談は大切だ。令和の今、戦後の一断面を語ってくれるのは当時の子供たち。戦いで人が死に、もっとも傷ついたのはその子供たちだ。5歳の作者が母のそばで聞いた艦砲射撃の記憶だ。同じはがきには<壕の蓋飛ばされ逃げし終戦日>の句も見える。この作者には毎年夏、貴重な体験を投句してもらっている。昨年の紙面では<引揚船の乾パンうれし終戦日>を取り上げた。
風薫る村の広場に力石 石巻市小船越/芳賀正利
【評】力比べに用いられた力石。各地に残っており200キロを超す石もあるという。この村でも力自慢がそろっていたのだろう。重い石と風との対比が巧み。
蝉の鳴く斎太郎節のこゑに乗せ 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】5年前の石巻かほく学習会の出席者が「津波からずっと心の中に斎太郎節が流れている」と語っていた。三陸の魂の歌は、蝉の心をも震わせるのだ。
レコードに微かなノイズ明易し 松島町磯崎/佐々木清司
【評】かすかな擦れや傷のノイズ。その音も含めて味わうレコード鑑賞。夜のイメージに通じる一枚なのだろうか。明け急ぐ夜を嘆いているように感じる。
津波碑をしばらく仰ぐ夏帽子 石巻市中里/佐藤いさを
悲しみと無縁の速さ夏つばめ 多賀城市八幡/佐藤久嘉
肩幅は父ゆうに越え雲の峰 石巻市開北/ゆき
夏雲や威風堂々孕み牛 石巻市蛇田/石の森市朗
川揺する夏の土用の蜆舟 石巻市相野谷/山崎正子
これよりは刻を寝かせて梅の酒 石巻市桃生町/西條弘子
種大き地物の梅を煮る夕べ 仙台市青葉区/狩野好子
早池峰の岩場の吾子に霧流る 石巻市流留/大槻洋子
久々の妣の微笑み蓮一輪 東松島市矢本/雫石昭一
北上川小舟ゆったり流し釣り 石巻市吉野町/伊藤春夫
浮草や雨と流れて川下り 石巻市門脇/佐々木一夫
白南風や演歌流るる屋台村 石巻市新館/高橋豊
音ひびき散るゆく火玉夏惜しむ 東松島市あおい/大江和子
白頭を蹴って飛び行く蝗かな 石巻市元倉/小山英智
羽抜鳥羽ばたく力艶残し 石巻市渡波町/小林照子
茄子苗を植えて待ちたる夏の色 石巻市駅前北通り/津田調作