短歌(9/10掲載)

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【斉藤 梢 選】


同じ光二度とはなくて一〇〇回目の夜空にまっすぐ炎(ひ)はのぼりゆく   石巻市開北/ゆき

【評】夏の夜空を彩る花火を見上げながら、人々は何を思うのだろう。今年で一〇〇回を迎えた「石巻川開き祭り」の花火大会での「炎(ひ)はのぼりゆく」だと思う。まっすぐにのぼってゆく光の一点、そして、ひらく花。一瞬の美しさと眩しさの後は、夜の闇が浮き立って、なんだか寂しい。「同じ光二度とはなくて」の表現が作者の心情を伝えていて、鎮魂の花火でもあるのかと、その光を想像しながらしばらく目を瞑る。「花火」の一語を使うことなく、その様子を表わして、明暗と生死をも内包するような一首。


高らかに校歌響ける甲子園平和なる世の永く続けよ   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】8月6日に開幕し、23日に決勝が行われた第105回全国高校野球選手権大会。選手たちの健闘に胸が熱くなった方も多いだろう。試合終了後の校歌斉唱を聞いて、作者は「平和なる世の永く続けよ」という願いを抱く。声出し応援も4年ぶりに復活して、コロナ禍以前の「甲子園」が戻ってきた。高らかに校歌を歌う命の輝き。懸命な躍動が心に残る。


夜の秋呼ばれたやうに外に出れば枇杷の色した柔らかな月   石巻市流留/大槻洋子

【評】「夜の秋」は、夏の季語。夏なのに秋の気配がする夜に、作者は枇杷色の月と出合う。「呼ばれたやうに」が感覚的で、「外に出れば」の行為が心の動きを示している。月との静かな語らいを詠んでいる抒情歌。


夫なくし二年目の友ふっともらす風鈴の音(ね)に独りを知ると   石巻市流留/和泉すみ子

【評】友の思いに心を寄せている作者。「二年目」の具体が、その寂しさを思わせる。「独りを知る」は、友の心の声。作者はどんな言葉をかけたのだろう。


津波には辛(つら)い思いもあるけれどサザンの「ツナミ」ふと口ずさむ   東松島市矢本/高平但

我が背より高きひまわり天仰ぎ暑さ厳しと小言呟く   東松島市赤井/茄子川保弘

紙面にて介護体験読みおれば思わず目頭熱くなるなり   石巻市不動町/新沼勝夫

草花を植えて咲かせて和み居る朝に夕にと水をそそぎて   石巻市駅前北通り/津田調作

日の落ちた暗い夜空を見つめてる明日の朝まで静かな夜を   東松島市矢本/畑中勝治

炎天下花々くたっと萎れそう初雪草だけ涼し気に咲く   東松島市赤井/佐々木スヅ子

遡上する簗瀬で跳ねる若鮎の初夏の訪れふる里の川   女川町旭が丘/阿部重夫

故郷はほど遠くなる盂蘭盆よ手向ける花を写真に飾る   東松島市矢本/川崎淑子

偶然と必然である生きること朝の目覚めは不安と喜び   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

金魚鉢水をかえてより畑へ行く戻ってみれば早やぬるま湯に   石巻市桃生町/佐藤俊幸

茗荷(みょうが)の地での出会い恐ろし盆の入りがまがえるとの夏の思い出   石巻市湊東/三條順子

津軽飴すくって耳をかじりけり南部せんべい懐かしの味   石巻市渡波町/小林照子

夏の日々稲穂の成長目に見えてやがて迎えるみのりの時を   石巻市桃生町/西條和江

甲子園選手紹介のアナウンス読むに読めない選手の名前   東松島市矢本/奥田和衛