俳句(9/17掲載)

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【石母田星人 選】


音跳ねて鼓涼しき夕べかな   石巻市桃生町/西條弘子

【評】暑いからこそ涼に敏感になる。ゆえに涼しは夏の季語。大鼓と小鼓の掛け合いでは、音色の違いに絶妙なる間(ま)が生まれる。その間に涼を感じた作者。


目にしみる北上川の遠花火   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】開北橋周辺でなく遠くから見た追悼の花火。豪華な色や体に響く重低音は楽しめないが、遠いからこそ見えるものもある。目の奥に届く小さな輝きは、亡き人の思い出をたぐり寄せるにはちょうどいい。


明の星棚田賑はふ稲雀   東松島市矢本/雫石昭一

【評】東の空には明けの明星。豊作の棚田には稲をついばむ稲雀。どこからか歓喜の声が聞こえてくる。


原爆忌うやむやに時流れけり   石巻市駅前北通り/小野正雄

ねぶた絵の隈取り入れて筆光る   石巻市丸井戸/水上孝子

万斛の石に肌理あり露浄土   石巻市中里/佐藤いさを

三陸の沖に黒潮夏の雲   石巻市蛇田/石の森市朗

網戸より潮騒とどく涼しさよ   石巻市相野谷/山崎正子

丸洗ひしたき故里水を撒く   石巻市吉野町/伊藤春夫

水槽は目高一匹森の宿   石巻市流留/大槻洋子

薄明り庭の小石に虫すだく   石巻市門脇/佐々木一夫

星形に脚固まらせ蝉の落つ   石巻市小船越/堀込光子

音読の声の気になる熱帯夜   石巻市小船越/芳賀正利

大ぶりの供へ茶碗よ秋彼岸   石巻市中里/川下光子

牛糞の一片汗にとどまれり   石巻市広渕/鹿野勝幸

復興を見届け廻るインパルス   石巻市元倉/小山英智

初盆や育てし西瓜真ん中に   石巻市新館/高橋豊

昆虫よ何処で凌ぐやこの暑さ   石巻市水押/阿部磨

泳ぎつゝ逆光の美し呼吸音   石巻市開北/ゆき

アパートは空き室ばかり星月夜   松島町磯崎/佐々木清司

昼酒のうまさ染み入る秋茄子   石巻市桃生町/佐藤俊幸

トンネルを抜け一面の大花野   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

地味案山子ドレス案山子に見とれをり   東松島市あおい/大江和子

夏休み孫とプリント四ページ   石巻市流留/和泉すみ子

ほたる籠ひ孫の顔や置きみやげ   石巻市駅前北通り/津田調作