【石母田星人 選】
この炎暑地球のほかに行場なく 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】気象庁がこの暑さを異常だったと判断した。「異常で結構、毎年ならたまらん」とあきらめ悟って超然と構えるこの一句。異常な暑さと相対するには、この境地に至るしか方法がないのかもしれない。
出穂の稲のざわめき昼も夜も 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】「稲のざわめき」は、色づき始めた稲の香のことだろう。むせ返るほどだが歓喜にあふれる香だ。
背番号縫ふ人の居る甲子園 石巻市恵み野/森吉子
【評】今年も地元高校の活躍と、好プレーに沸いた夏の甲子園。球児の動きより背番号に目が行く作者。一針一針願いをこめて縫った経験があるのだろう。
八月の空に湧き立つ父の雲 石巻市門脇/佐々木一夫
原爆忌海面を叩け鯨の尾 石巻市中里/佐藤いさを
カナカナや戦語らぬ父なりき 石巻市小船越/堀込光子
夕風に青蘆原のさやぎだす 石巻市相野谷/山崎正子
捩花や道草好きの遠眼鏡 石巻市丸井戸/水上孝子
海鳥や二百十日の波静か 東松島市矢本/雫石昭一
落暉なり鳥海山の雲海に 石巻市流留/大槻洋子
稜線の塔に灯が入る星祭 石巻市桃生町/西條弘子
灌木帯抜けて夏山縦走路 石巻市吉野町/伊藤春夫
米寿には米寿の暮し風は秋 石巻市小船越/芳賀正利
古稀はまだ使いっぱしり盆踊り 石巻市開北/ゆき
秋立つやキルンの煙棚引いて 石巻市新館/高橋豊
遠花火消灯しての物思ひ 石巻市中里/川下光子
伊豆沼を蓮うめ尽くす花尽くす 多賀城市八幡/佐藤久嘉
送り盆乗りたる船と友の顔 石巻市駅前北通り/津田調作
さざ波に足を浸して秋に入る 石巻市元倉/小山英智
夜涼みや土手の川風肌癒す 石巻市水押/阿部磨
秋立ちて朝夕の風心地よし 石巻市三ツ股/浮津文好
息のんで酸素取り込む鮑海女 石巻市桃生町/佐藤俊幸
介護所のスタッフ笑顔夏の空 東松島市赤井/村上和枝
「マイウェイ」添えて真昼のアイスラテ 東松島市矢本/菅原京子
鰻弁をそつとわが手に有難う 石巻市中里/鈴木きえ