【石母田星人 選】
金風や御堂に続く透かし橋 松島町磯崎/佐々木清司
【評】芭蕉も物理学者アインシュタインも感激した松島の景。その象徴・五大堂へと続く橋。透かしの間からは海が見え心引き締まる。季語の金風が効果的。
蘆原の細き江を来る櫂の音 石巻市相野谷/山崎正子
【評】作者は浜育ち。蘆原の地形を細部まで知っている。下五の「櫂の音」は、生い茂った蘆でまだ見えないが、もうじき見えるはずの小舟の存在を語る。
はねこ踊り過ぎれば風の道となる 石巻市桃生町/西條弘子
【評】「ものうふれあい祭り」が復活。軽快な舞が観衆を魅了した。「風の道」がいい。祭り後の静寂とともに、充足感に満たされた喜びも込められている。
ふる里の庭のぶどうは濃紫 石巻市吉野町/伊藤春夫
【評】豊かな香りと濃厚な甘みのぶどうが出回っている。だが作者の一番はふる里のもの。変わらぬ色と味で待っている。口に入れるとほっとうれしくなる。
水澄みて全て止まったかの如く 石巻市恵み野/森吉子
【評】表現はぎこちない部分もあるが感受性明敏。「全て止まったかの如く」は、少々抽象的なのだが、季語「水澄む」の本質を捉えているような気がする。
嘶きのどこまで続く秋日和 東松島市矢本/雫石昭一
新豆腐ひぐれの雲の高さかな 石巻市流留/大槻洋子
新涼の清掃終へて木魚かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
仲秋や川面に大き雲の翳 石巻市中里/佐藤いさを
甍より立ちのぼりたる雲の峰 石巻市丸井戸/水上孝子
むらさきの桔梗にけぶる鬼首 多賀城市八幡/佐藤久嘉
秋立つや合せ鏡の美容院 石巻市中里/川下光子
赤とんぼ嶺に風車が回りをり 石巻市蛇田/石の森市朗
スーパームーン新米の知らせはや 石巻市小船越/堀込光子
霧襖穂高山頂確と踏む 石巻市中里/上野空
水の秋海と落ち合う北上川 石巻市新館/高橋豊
晩学の視力聴力秋思かな 石巻市桃生町/佐藤俊幸
秋の夜に生きよ生きよと落し蓋 石巻市駅前北通り/津田調作
月見草空までのびて主張せよ 石巻市渡波町/小林照子
遠近の夕餉の匂い秋の風 東松島市あおい/下山慶子
蚊帳の子に遠く波音子守唄 石巻市流留/和泉すみ子