【石母田星人 選】
現るる雲消ゆる雲あり刈田道 石巻市中里/佐藤いさを
【評】稲刈り後の道を歩く。黄金色の稲穂が豊かに揺れていた田は広々と開けて、刈り株と刈り田の匂いだけが残る。上五中七で満ち足りてゆく心を表現。
落雁や月光の味知つてゐる 石巻市相野谷/山崎正子
【評】夜に渡ることが多く、月と雁の取り合わせは秋の風物詩。中七「月光の味」は、味覚だけではなく五感を超越した表現。月光に満たされた沼への着水。雁たちにとって月光はわが家にも似た安らぎなのだ。
懐かしき歌は湧き出るバスの秋 石巻市流留/大槻洋子
【評】昔の楽曲をよどみなく歌えた。楽しいバスの雰囲気が当時を思い出させてくれたのかもしれない。
銀河濃し二萬の死者の棲むところ 石巻市蛇田/石の森市朗
秋天や太鼓の撥の反りに反る 石巻市開北/ゆき
鬼剣舞の子等に喝采秋の天 石巻市桃生町/西條弘子
風神と雷神唸る花野かな 石巻市吉野町/伊藤春夫
満月や源氏の君の恋語 石巻市丸井戸/水上孝子
茱萸熟れて若き夫婦の畑仕事 石巻市中里/川下光子
高原の闇の底から鉦叩 石巻市小船越/芳賀正利
レーザーで測る水平秋日和 石巻市新館/高橋豊
大岩の祠に降りし紅葉かな 東松島市矢本/雫石昭一
暖簾にも一日の終り夜半の月 松島町磯崎/佐々木清司
ハロウィン巨大南瓜の怪しばむ 東松島市あおい/大江和子
おぼつかぬ腰が運ぶや今年米 石巻市広渕/鹿野勝幸
花びらはめでたき色よ酔芙蓉 石巻市流留/和泉すみ子
白壁に焼かれ佇むとんぼかな 石巻市門脇/佐々木一夫
そろそろと帰り支度の案山子かな 石巻市桃生町/佐藤俊幸
病室を仕切るカーテン秋の風 石巻市元倉/小山英智
聞き耳の不忘山麓吾亦紅 多賀城市八幡/佐藤久嘉
けだるさをまとふポストよ短日よ 石巻市駅前北通り/小野正雄
空気みな金木犀が占領し 石巻市向陽町/成田恵津美
吹かれ落ち踏まれ突つかれ渋柿や 石巻市恵み野/森吉子
山粧ふ太平洋に負けまいと 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
気仙沼に先づは一献海鞘の味 石巻市中里/鈴木きえ