短歌(11/5掲載)

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【斉藤 梢 選】


パンプスのヒールの修理は二度目にて喪にはく黒はかかとだけ傷む   石巻市開北/ゆき

【評】感情を具体的には述べずに、事実だけを詠んでいる一首。「喪にはく黒」のパンプスの修理は二度目で「かかとだけ傷む」として、歌が結ばれている。悲しみや心の痛み、寂しさや追悼の意を述べる時に、私たちはどのような言葉を選び、どのような詠み方をするだろうか。感情を詠み込んでいない作品だからこそ、作者の思いに心を深く寄せることができることもある。悼む心で黒いパンプスをはいた時の、その都度の作者の心情を察する。かかとの傷みは、心の痛み。


日除け取り明るさ戻るリビングの全ての物に甦る力(りき)   東松島市矢本/川崎淑子

【評】暑い夏がようやく終わり、日除けを取った時のリビングの様子を感覚的に詠む。部屋の中に日差しが届くことがなかった夏の日々が長かったので「明るさ戻る」の表現には、安堵の思いが滲む。久しぶりに日差しを浴びた「全ての物」に力が甦るようだと強く感じた作者。もしかしたら、冷房の部屋で過ごした人間にも言える「甦る力(りき)」なのかも。


世の中は嫌なニュースが続いてる銀のサンマで明るくなれば   石巻市水押/阿部磨

【評】心がすさむようなニュースが多いこの頃。この歌の下句には、作者の願いが込められている。「銀の」の表現が優れていて、旬の新鮮なサンマが、心を明るくすること間違いなしなのだ。


残らないものと知りつつ足跡をつけてみたいのだろうか風も   石巻市駅前北通り/工藤久之

【評】立秋の日に藤原敏行が詠んだ「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」を想起する一首。目に見えない風を感じつつ、風に自身の思惟を重ねる作者か。「だろうか秋風」とする方法も。


ライト点けつるべ落としと競うよな建築現場の軽快な音   石巻市流留/大槻洋子

秋の日は夕暮れ時が一番と私も思うつくづく思う   東松島市矢本/畑中勝治

隣り合ふ空き屋の庭にすすき満ち月皓皓と虫すだくなり   石巻市門脇/佐々木一夫

秋霖のやみて日の差す墓地公園朱極まりて彼岸花咲く   石巻市あゆみ野/日野信吾

寒いより暑いのが好きときっと言う冬将軍を目の前にして   東松島市赤井/佐々木スヅ子

コオロギの可憐な声で歌うのはデビューしたてか暫し耳澄ます   石巻市蛇田/菅野勇

若き日の面影さがして新聞を読みいる妻の横顔を見る   石巻市駅前北通り/庄司邦生

夜すがらのはげしき雷雨さりし朝にごりて湾の潮もりあがる   女川町旭が丘/阿部重夫

朝霧を破りて来たる艦(いくさぶね)迷彩色の動く翳(かげ)あまた   石巻市中里/佐藤いさを

坂道を下つていくよな日々なれば誰かの役に立ちたいと思ふ   石巻市流留/和泉すみ子

登り来る朝の学生声をかけ広い歩幅で清清と行く   石巻市羽黒町/松村千枝子

いつの日も遺影の笑顔に見守られ行ってきますとただいまを言う   石巻市西山町/藤田笑子

月隠れ窓打つ雨に立ち上がり読み掛けページに栞挟むや   東松島市赤井/茄子川保弘

古里へ飛んで行きたし羽根はなし鶴の折紙に託しましょうか   石巻市中里/鈴木きえ