【石母田星人 選】
啄木鳥や小舟を繋ぐ青い池 石巻市中里/川下光子
【評】きつつきが幹をたたいている。澄んだ秋空にこだまする。音があるから池はいっそう青さを増す。
温暖で鮭も帰れぬ母の川 石巻市水押/阿部磨
【評】<大海で母なる川の匂い消え>とも詠む。温暖化は身近な漁場や水産資源に深刻な影響を与えている。簡単に止まらぬ温暖化、ならば句を詠もう。常に自然と対峙している俳人なのだ。掲句のように「温暖化で海がおかしい」と警鐘を鳴らせば説得力もある。
藷蔓で地球を曳きし園児かな 石巻市吉野町/伊藤春夫
【評】いも掘り遠足。自分の手で土の感触を楽しみながらつるをひく園児。大げさな比喩表現に脱帽だ。
鳶の輪をほつほつ抜ける蘆火かな 石巻市相野谷/山崎正子
遠雷や南部鉄器の黒びかり 石巻市蛇田/石の森市朗
馬蹄打つ炎のこぼれ行く秋ぞ 石巻市桃生町/西條弘子
群れトンボ消えて一村どつと夜 石巻市中里/佐藤いさを
窓拭きて秋天われのものとなり 石巻市丸井戸/水上孝子
椿象のとびつくタオル秋の暮 石巻市小船越/芳賀正利
縄暖簾香る古民家走り蕎麦 石巻市元倉/小山英智
深海の青へ父追ふ素秋かな 石巻市開北/ゆき
ふる里や久しき道の雪蛍 東松島市矢本/雫石昭一
束の間を永遠に感じる神楽かな 石巻市桃生町/佐藤俊幸
小春日や地球の行く末案じらる 石巻市小船越/堀込光子
歳同じ母の命日十三夜 石巻市流留/大槻洋子
虫の声昭和の彩や郷の島 石巻市駅前北通り/津田調作
山小屋の床に避難所偲びけり 多賀城市八幡/佐藤久嘉
病棟の音ぱぴぷぺぽ秋深し 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
集落に子等の声なし芋嵐 石巻市新館/高橋豊
手荷物の重さ忘るるうろこ雲 石巻市向陽町/成田恵津美
チンペイさん微笑み置いて油点草 石巻市蛇田/櫻井節子
秋日和鉄橋渡り旅気分 石巻市流留/和泉すみ子
泡立草ススキと並び背くらべ 東松島市矢本/奥田和衛
サファイヤの熟柿とろりとごちそうよ 石巻市恵み野/森吉子
推しメンのドラマ終われば秋そぞろ 東松島市矢本/菅原京子