【石母田星人 選】
一斉に風に抗ふ冬芒 石巻市駅前北通り/小野正雄
【評】冬の芒が風になびいている趣のある風景だ。動詞「抗(あらが)ふ」の効果で単なる写生句とは一線を画している。芒の中に潜んでいる荒々しさが見えるようだ。
雪螢はちきれさうな薪小屋 石巻市相野谷/山崎正子
【評】小屋に高く積まれた薪を「はちきれそう」とうまく表現した。雪螢(綿虫)が飛ぶと初雪も近い。
傷だらけ光るまなこのラガーマン 石巻市桃生町/佐藤俊幸
【評】ラグビー中継では「少しいたんでいます」と倒れた選手を映すことがある。激しい衝突で全く動けない様子なのだが、試合は淡々と進んでゆく。上五・中七で闘争心とともにラグビーの過酷さを詠む。
鮪(しび)捌く少年口を一文字 石巻市中里/佐藤いさを
復興も七分ほどなりはらこ飯 多賀城市八幡/佐藤久嘉
船頭の追分ひびく冬の谿 石巻市桃生町/西條弘子
夕暮の厩舎を駆ける虎落笛 東松島市矢本/雫石昭一
鴨潜る地球の底を見るために 石巻市蛇田/石の森市朗
青空に銀杏黄葉のつづく路 石巻市丸井戸/水上孝子
まつすぐに帰らぬ児等の花野道 松島町磯崎/佐々木清司
千歳飴ひきずりながら手をひかれ 東松島市あおい/大江和子
明日のこと誰にも言はず猫じゃらし 石巻市吉野町/伊藤春夫
毛糸屋の二階雀荘秋深し 石巻市中里/川下光子
長身をかがめて入る秋の部屋 石巻市小船越/芳賀正利
秋晴れやしんがりとなるウォーキング 石巻市流留/大槻洋子
こおろぎや今夜は啼くな酒一人 石巻市門脇/佐々木一夫
民宿の客は一組吊し柿 石巻市元倉/小山英智
朝霧や尾灯教える道の先 石巻市新館/高橋豊
木星と天心わたる後の月 石巻市広渕/鹿野勝幸
疲れ目に釣瓶落しの日暮かな 石巻市向陽町/成田恵津美
玄関に落葉が二三しんとして 石巻市恵み野/森吉子
恥じらいを少し隠して紅葉散る 石巻市中里/須藤清雄
秋の虹案山子と共に仰ぎ見る 東松島市矢本/奥田和衛
秋の海ただただ蒼く果てしなく 石巻市流留/和泉すみ子
昭和とは秋刀魚の煙に曇る月 石巻市駅前北通り/津田調作