短歌(1/28掲載)

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【斉藤 梢 選】


新年を寿ぐ時の短さや地震の報にあの日が重なる   東松島市矢本/川崎淑子

【評】新しい年を迎えて、誰もが平穏を願いつつ過ごしていた1月1日午後4時10分に発生したM7・6の地震。地震の報道を見つつ、見ることしかできないと思いながらも、心を痛めていた人は多いだろう。能登半島地震の報に「あの日が重なる」と詠む作者。この時、さまざまな「あの日」の被災真実を思い出したのだと思う。東日本大震災で被災したからこそわかる恐怖、悲痛、悲苦。「重なる」の言葉は、ずっしりと重い。東日本大震災から12年10カ月の1月11日、宮城県の行方不明者は1213人。悼む日々は続く。


流れ来る冬雲の顔みな険し戦い止まぬ地球憂えて   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】雲には表情がある。流れ来る雲を見て佇む冬のある日。戦いが続く地への思いと、戦いが無くなって欲しいという願いが心を占めていて、それゆえに雲の顔が険しく見える。戦いの続く地と繋がっている空の下で見る冬の雲。「地球憂えて」の表現は、作者の怒りをも伝えている。雲の表情は、作者の表情。


正月はコタツでみかんと餅食べてトランプしてた遠い幸せ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】作者の記憶の中にある、家族揃っての「正月」。特別なことはなくても、昔は幸せだったとしみじみと感じるのだろう。「遠い幸せ」と詠む作者の今の心情を思う。能登半島地震で被災した方への思いもあっての、作かとも。かけがえのないものは何かを問う。


百態の波くりかへす三陸の海は百日冬の顔なり   石巻市中里/佐藤いさを

【評】長く長く海と向き合っている時に感受した「冬の顔」。三陸の海に生まれる百態の波。その波音が一首から聞こえるようだ。波の「百態」を想像する。


一日を無事に終わりし祝砲か遠汽笛ひとつ風呂場にとどく   石巻市流留/大槻洋子

昭和には家族が集う囲炉裏場に自在鉤在り湯気立つ鍋も   石巻市水押/阿部磨

含みたる菊花の酢の物かみしめて生花の量を推しはかり居り   石巻市南中里/中山くに子

我が短歌は「はっと」の如し練り寝かせ三十一文字を食みて味わう   東松島市矢本/高平但

観衆の拍手背に受け走り抜く若人たちの歓喜のゴール   石巻市水押/佐藤洋子

「大丈夫」不調な時のおまじないそっと呟いてこぶしをにぎる   石巻市流留/和泉すみ子

午後の陽が真上に光って輝いて程好い温さこれが真冬か   東松島市矢本/畑中勝治

細き脚のべて小鳥は木守柿の朱の魂を朗らについばむ   石巻市開北/ゆき

掃除の手休めて見ればこの埃我が一年を物語るよう   東松島市赤井/茄子川保弘

二度と来ぬ今日という日を大切に八十路となれば尚更のこと   石巻市向陽町/成田恵津美

八十路坂五体のほころびここかしこ繕い乍ら余命を刻む   石巻市不動町/新沼勝夫

空と海夕陽を抱く地平線茜の色に見事に染まる   東松島市矢本/奥田和衛

朝露をふふめる菊の花びらの笊にあふれて香りを放つ   女川町旭が丘/阿部重夫

自然には誰も勝てない逆らえぬいつになったら平和の国に   石巻市西山町/藤田笑子