クリスマスの日、誰もが幸せとは限らない、と僕は子どもながらに知っていた。母は、若いときに父が亡くなり、女手一つで僕を懸命に育ててくれた。朝早くから、地元の水産加工場で働いた。体調が悪くても、日給だからと無理して出勤する毎日だった。生活に余裕はなかった。
小学生の時、クリスマスにひとり親の子が公民館に集められ、箱に入ったショートケーキ一つが配られた。この後、交通事故や海難事故で親を失った子どもたちは関係団体が開くクリスマスパーティーに招かれた。わが家は対象外だったようで、その場から一人離れて帰るのが通例だった。苦い思い出だ。
公民館から出ると、寒空の中、いつも母が僕を待っていた。二人で海岸近くにある和菓子屋に立ち寄り、ボストンパイを買い足して帰るのがわが家の年中行事。寂しさが救われる瞬間だった。
その日は、いつもの年と違っていた。家に帰ろうとする僕の手を母が引き寄せると、いつになくうれしそうな笑みを浮かべた。
「今日は良いことがあったんだよ。古くなったこたつか、欲しがっていたストーブが買えるくらいボーナスが出たんだ。どっちにする」
母は僕を喜ばせようと、自分の服を買わず、クリスマスプレゼントを用意してくれていた。あかぎれが切れて血のにじむ手で、僕の手を温めてくれたことを今も忘れることはない。
やっと子育てが終わって生活に余裕ができ、母を好きな旅行に連れて行こうと思っていた時に、東日本大震災が元で母は帰らぬ人となった。あの日のことを思い出すたび、母の優しい記憶がよみがえる。
(東松島市 無職 阿部けいいち 63歳)
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「愛の物語」応募は、字数が1面「つつじ野」と同じ700字と、原稿用紙1枚の400字の2種類から選ぶ。書式は自由で、メールと郵便で受け付ける。優秀作は朗読会=2月17日(土)午後2時、かほくホール=で紹介する。
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