短歌(2/25掲載)

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【斉藤 梢 選】


冬日さす居間にオレンジの柿光る我が家の実り大皿にのる   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】大皿にのせられた柿が見えるようで、その色を「オレンジ」と表現しているところが印象的だ。小島ゆかりに「柿の朱は不思議なる色あをぞらに冷たく卓にあたたかく見ゆ」の一首がある。同じ柿の実であっても、その実がどこにあるかによって見え方が違う。柿の色を「朱」と詠むことは多いが、冬の日差しがさしこむ居間に置かれた柿は、光を得てオレンジ色に見えたのであろう。大皿にのる柿は、この冬の日の主役。「我が家の実り」は、作者の冬の心を元気づけている。


四季桜淡く小さく咲く道を茂吉の歌碑へくだる一月   石巻市流留/大槻洋子

【評】斎藤茂吉の歌碑は160を超える数があり、北海道から九州までの広い範囲に建てられている。この歌にある「茂吉の歌碑」は、おそらく石巻の日和山公園にあるものだろう。この歌を読むと「四季桜」の咲く道を、作者と一緒に歩いているような気持ちにもなる。四季桜に心を寄せて歩く一月のひとときを、詠み残す一首。日常にある小さな旅の歌として、深く味わいたい。


ひとすじの煌めきスーッとひいてゆく冬の舞台の白鳥一羽   東松島市矢本/川崎淑子

【評】「冬の舞台」という捉え方がいい。白鳥の飛び立つ様子を表した上句。美しいと言わずに、美しさを伝えていて、一瞬であるがゆえの「煌めき」は清冽である。作者の心に長く在り続ける一羽だろう。


青空をこころに飲んで生きゆかん九十三歳身は老いたれど   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】この一首は、93歳の作者の心意気そのもの。「青空をこころに飲んで」の発想に惹かれる。「生きゆかん」という、純朴で力強い願い。


寒風に背を低くして冬の草深く根をはり若芽育む   石巻市あゆみ野/日野信吾

プラタナス枝葉伐られて寒風に千手観音の如く立ちをり    石巻市向陽町/成田恵津美

あかときの蔵王おろしの船溜まり凪待つ蜑(あま)は癋見(べしみ)のごとし   石巻市中里/佐藤いさを

味噌汁の香り漂う朝餉時テレビが伝える能登の辛さよ   石巻市門脇/佐々木一夫

北洋の漁場より帰り来る船の長くかかりて接岸終えぬ   女川町旭が丘/阿部重夫

早朝の庭の枯木に積む雪よ静もりかえり音無き世界   石巻市南中里/中山くに子

生きることしんどいなあと空見上げ自分をほめる日をつくりおり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

お祝いに清酒「初孫」頂戴しにやにやちびりちびりにやにや   東松島市矢本/高平但

成り行きを見詰めるしかない人生の何か侘しい我が事なのに   東松島市矢本/畑中勝治

雪の庭紅い実だけが目に入る南天一本空睨むなり   東松島市赤井/茄子川保弘

七草の乾燥粉末かきまぜて粥をつくりぬ一月七日   石巻市駅前北通り/庄司邦生

今はなき海辺の町はなつかしく夢にでてきてあの日にもどる   石巻市流留/和泉すみ子

公園で親子が遊ぶ声がする風に吹かれてやさしく届く   東松島市赤井/佐々木スヅ子

「紅ほっぺ」一口どうぞとお隣さん甘い香りの春が来ました   石巻市西山町/藤田笑子