不慮の事故で仕事を退職することになった。思うように体が動かず、活力も気力も薄れ、毎日酒を飲みボヤッと過ごしていた時に彼が現れた。
2020年9月、まだ暑さが残る夜、納屋でビールを飲んでいた。暗がりからそっと近づいてくる。白と黒のトラ模様の野良猫。1歳にもなっていないだろう。つまみのおかきをあげると、警戒しながらも食べてくれた。その後もちょくちょく来るようになった。
11月、就職することになった。段ボール箱の底にタオルを敷き納屋に置くと、野良猫が時々来て箱の中で眠っていた。仕事は順調に進み、体も徐々に動けるようになった頃、野良猫を「三平」と名付けた。初給料で猫用おやつ「ちゅーる」を買ってあげた。おいしそうに食べていた。
悪いと思ったのか、15センチほどのアイナメを持ってきて納屋の入り口に置いた。褒めてくれと言わんばかりのドヤ顔で見ていた。食べることはできないがとてもうれしかった。
納屋で晩酌をしていると三平が必ず現れ、相手をしてくれた。
真冬になって2週間ほど三平が姿を消した。3月9日、ふらりと帰ってきた。毛並みが悪くやせていた。食事をあげると、少しだけ口にしてまたどこかに行ってしまった。3月12日、段ボールの中で三平は寝ていた。動けない様子で、弁当のしょうゆ入れをスポイト代わりに水を口に運ぶとペロペロと飲んでくれた。
介護の夜勤明けの仕事が終わり納屋に行くと、三平は動かず静かに逝っていた。花を買い大好きなちゅーるを段ボールに入れた。
たった半年の付き合いだったが、自分の一番つらい時にふと現れ、励ましてくれた猫。もうお返しはいいからね。今でも道ばたで白と黒の虎猫を見かけると足を止め、「三平か」と思ってしまう。
(小野寺徳寿 53歳 会社員 石巻市湊)
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