結婚して間もなく、義父の英吾ちゃんが「かぬぁこぉ~、でぇこん、はするぅさおいでだがらや~」と言った。私の顔に?マークが貼り付いていたのが見えたのか、「だ、い、こ、ん」と大きくハッキリと区切って言い直した。
いやー違う。ハテナはそこじゃない。「佳奈子、大根」までは分かった。その後の「はするぅ」が分からない。
たぶん大根を置いたのはキッチンだ。シンクに立派な大根があった。そうか「はしり(台所の流し)」か。2人で笑って、夜は大根の煮物にするね、と言った。
東京で生まれ、父の転勤で各地で暮らした。方言がほぼ他国語に聞こえた土地もあった。
美里町に住む英吾ちゃんはいつも楽しい人だった。シソを摘んできてほしいと頼めば、お使いの子供のように庭から大量のシソを摘んできて、足りるか?と問いかける顔。でっけぇカボチャが収穫できたと喜ぶ顔。カボチャが煮上がるのが待ちきれず、台所をウロウロし、腹減ったと、よだれを垂らさんばかりの顔。
黙ってパチンコに行き、真っ暗になっても帰って来ず、出迎えた義母に怒られ、仏像と化した顔。腎臓が悪かったため、食事制限があったのに、隠れてお菓子やミカンを食べ、してやったりな顔。ごみ箱を見ればバレるのに。それでも、おっかぁー(義母)が大好きで、姿が見えないと、探し回る不安げな顔。言いたい事が顔に出ていた。
移り行く季節と旬の野菜が出回る度に、英吾ちゃんとの会話と顔を思い出す。野菜には英吾ちゃんとのエピソードが付いている。
夫に伝えると、「物まねうまいね。けど方言のイントネーションが違うんだよな」と言われる。英吾ちゃんが逝って10年、浮かぶ笑顔はまだまだ鮮やかだ。
(高橋佳奈子 58歳 主婦 東松島市矢本)
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「読者の愛の物語」掲載作と「つつじ野選」収録作の一部を対象とした朗読会が17日午後2時、三陸河北新報社(石巻市千石町4―42)1階かほくホールで開催される。フリーアナウンサー阿部未来さんが13作品を朗読する。
入場無料。午後1時30分開場し、先着100人が入場できる。敷地内に来場者用駐車場がないため、同社は電車かバスの利用をお願いしている。