「こうちゃんはママが一番好き。でもじっちのことがもっと好き」
息子は小さい頃、一番好きなのは誰か尋ねると必ずこう答えた。本当は母である私が一番だと思い、何度も聞くのだが、順位は変わらない。私の父が不動の1位なのだ。
核家族で共働きのため、息子は8カ月から保育園に入った。すぐに高熱や嘔吐(おうと)を繰り返し、2週間休まずに登園できたら良い方だった。私は好きな仕事を辞めるか悩みに悩んだ。両親を頼るにも母は現役で働いており、長年教職を務めて定年退職したばかりの父は家事や育児をしたことがない。そんな父が「大好きな仕事を辞める必要はない。お父さんが面倒見るから」と言ってくれた。
父はまれに料理をするが、家族には不評。兄と私と弟の3人の育児にほぼ関与せず、母は「一人で育てたようだった」と振り返る。ものすごい働き者で朝早く起きて農作業をしてから学校に向かっていた。私たちきょうだいには厳しく成績が悪いと怒られた。
父は約束通り息子の面倒を見てくれた。熱を冷ますシートをはがさないようおでこに縦に貼るなど、父なりにかいがいしく看病してくれた。
息子が歌を歌えるようになると、2人でマラカスとマイクを握ってカラオケを楽しんだ。息子を好きな電車に乗せる体験を企画したのは父。自転車の練習をしたのも父だ。私たち夫婦も懸命に育てた。母も、主人の両親も息子との関わりを大切にしてくれた。だが、父にはかなわない。
そんな息子も今や高校生。好きな人と聞いても、すぐに家族とは思い浮かばないだろう。私の実家に行くのは年に数えるほど。だが、息子が行くと父は満面の笑みで迎え、しきりに話し掛ける。結局、私は一番になれなかった。それでも構わない。
(阿部綾 46歳 図書館司書 美里町大柳)