「子曰(いわ)く、父在(いま)せばその志を観(み)、父没すればその行いを観る。三年父の道を改むるなきは、孝と謂(い)うべし」
論語の中の一節です。父親が存命ならばその志を見なさい。父親が亡くなったならば何をされていたかを感じなさい。父親が亡くなってから3年間は父親と同じように振る舞うのが親孝行。こんな意味です。
自分に当てはめると親不孝者です。父は生前、口うるさく、日々の暮らしの事、家の習慣やお盆や年末にすべき事などこまごまと言いつけて、私がその通りやらないとかんしゃくが落ちました。口答えの余地はなく、生前は仕方なく父の言う通りやるほかなく従いました。父が亡くなると、父から伝えられた事は何事も簡略に済ませています。まったく論語の言葉には当てはまらない振る舞いです。
父の亡くなった直後、農業ハウスに桐(きり)の苗がくくり付けてありました。不思議でしたが、父の形見のようにも思い、別の場所に植えました。後日、隣のおばさんに「としみが好きな木だからと言っていたよ」と教えられて驚きました。
頑固で融通が利かなくて気難しい父でしたが、足が悪いのに朝から日が落ちるまで働きました。素手で土仕事をするので、爪や肌に染みついて黒光りのする手でした。土に生き、土に還りました。
年を重ね、何かの折りに父の言った言葉がよみがえります。父祖の土地を守るために苦労もあったと思います。嫌でたまらなかったこの生まれた土地も今はいとおしく、父の思いが自分の血脈にも脈々と流れているのを感じます。父が逝って14年。桐の木は大きく伸びて、父の逝った5月に薄紫の花を咲かせます。花材のない冬は鈴なりの形の実をつけた桐の木を生けるのが私の習わしです。
(高橋としみ 68歳 団体職員 石巻市真野)