【石母田星人 選】
眉を上げ若き語り部三月忌 石巻市小船越/堀込光子
【評】話のポイントを強調しようと眉を上げる若い語り部。大震災当時、この人は何歳だったのだろう。語り部をするということは、つらかった記憶と何度も向き合うということだ。真剣な生き方に頭が下がる。
草堂に詩人のベッド春の雪 松島町磯崎/佐々木清司
【評】ビル街にある静寂の空間、晩翠草堂。ここで土井晩翠が晩年を過ごした。中にはベッドが残されている。詩のように降る春の雪に魅了されている作者。
手鏡の裏も表も春駆ける 石巻市渡波町/小林照子
【評】<人も見ぬ春や鏡の裏の梅>が浮かぶがこの句は鏡裏の片隅の春でなく、らんまんの春を詠った。
束の間の忘れ霜置く祈念塔 石巻市中里/佐藤いさを
三月の八十四人忘れまじ 石巻市蛇田/石の森市朗
みちのくの復興俯瞰揚ひばり 東松島市あおい/大江和子
表現に悩みつつ踏む落葉かな 石巻市駅前北通り/小野正雄
中三の無言を掬ふ葛湯かな 石巻市開北/ゆき
春を舞ふ鮎川浜の七福神 石巻市桃生町/西條弘子
泡沫(うたかた)の儚さふふむ春の雪 石巻市丸井戸/水上孝子
一浜や一戸一戸が寒に耐え 多賀城市八幡/佐藤久嘉
淡き香の窓の風受く風信子 石巻市小船越/芳賀正利
春浅し夕日沁みゐる百度石 石巻市相野谷/山崎正子
梅咲くや古き土蔵は海鼠壁 石巻市吉野町/伊藤春夫
亀鳴くや言葉発して喉がかれ 石巻市桃生町/佐藤俊幸
豆撒きや自分の足に一掴み 石巻市新館/高橋豊
寒凪や大海原の休息日 石巻市門脇/佐々木一夫
賑やかに国境越えて鳥帰る 石巻市広渕/鹿野勝幸
春炬燵齢重ねてひと眠り 石巻市元倉/小山英智
動線の短くなりぬ雪催 石巻市渡波/阿部太子
ゆるやかな線路の先に春や待つ 石巻市流留/和泉すみ子
春寒や履き古したる母の靴 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
菜の花や貴方探して雲を追ふ 石巻市のぞみ野/阿部佐代子
蕗味噌の余所の味知り世間知る 石巻市恵み野/森吉子
雪の白さざん花の赤窓越しに 石巻市駅前北通り/津田調作