俳句(3/17掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】


眉を上げ若き語り部三月忌   石巻市小船越/堀込光子

【評】話のポイントを強調しようと眉を上げる若い語り部。大震災当時、この人は何歳だったのだろう。語り部をするということは、つらかった記憶と何度も向き合うということだ。真剣な生き方に頭が下がる。


草堂に詩人のベッド春の雪   松島町磯崎/佐々木清司

【評】ビル街にある静寂の空間、晩翠草堂。ここで土井晩翠が晩年を過ごした。中にはベッドが残されている。詩のように降る春の雪に魅了されている作者。


手鏡の裏も表も春駆ける   石巻市渡波町/小林照子

【評】<人も見ぬ春や鏡の裏の梅>が浮かぶがこの句は鏡裏の片隅の春でなく、らんまんの春を詠った。


束の間の忘れ霜置く祈念塔   石巻市中里/佐藤いさを

三月の八十四人忘れまじ   石巻市蛇田/石の森市朗

みちのくの復興俯瞰揚ひばり   東松島市あおい/大江和子

表現に悩みつつ踏む落葉かな   石巻市駅前北通り/小野正雄

中三の無言を掬ふ葛湯かな   石巻市開北/ゆき

春を舞ふ鮎川浜の七福神   石巻市桃生町/西條弘子

泡沫(うたかた)の儚さふふむ春の雪   石巻市丸井戸/水上孝子

一浜や一戸一戸が寒に耐え   多賀城市八幡/佐藤久嘉

淡き香の窓の風受く風信子   石巻市小船越/芳賀正利

春浅し夕日沁みゐる百度石   石巻市相野谷/山崎正子

梅咲くや古き土蔵は海鼠壁   石巻市吉野町/伊藤春夫

亀鳴くや言葉発して喉がかれ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

豆撒きや自分の足に一掴み   石巻市新館/高橋豊

寒凪や大海原の休息日   石巻市門脇/佐々木一夫

賑やかに国境越えて鳥帰る   石巻市広渕/鹿野勝幸

春炬燵齢重ねてひと眠り   石巻市元倉/小山英智

動線の短くなりぬ雪催   石巻市渡波/阿部太子

ゆるやかな線路の先に春や待つ   石巻市流留/和泉すみ子

春寒や履き古したる母の靴   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

菜の花や貴方探して雲を追ふ   石巻市のぞみ野/阿部佐代子

蕗味噌の余所の味知り世間知る   石巻市恵み野/森吉子

雪の白さざん花の赤窓越しに   石巻市駅前北通り/津田調作