2023年度の「石巻かほく」俳句の最優秀賞が石巻市吉野町の伊藤春夫さん(86)、優秀賞は石巻市桃生町の西條弘子さん(77)、石巻市中里の川下光子さん(80)に決まった。伊藤さんは初の最優秀賞。選者の石母田星人氏が選考した。
<選者・石母田氏から>
本年度も多くの皆さまの句で活気のある俳壇になった。感謝したい。今回も一年を通して投句していただいた人の中から選ばせてもらった。
最優秀賞は伊藤春夫さん。この俳壇の創設以来継続して投句してもらっている。本年度、特に光ったのは<吊革にぶらさがりゐる残暑かな>。昨年の特徴は地球温暖化による猛暑。この句は収まらない厳しい暑さを見事に表し、年度を代表する句になった。また<牡蠣啜る牡鹿の海のうまさかな><海割つて鯨跳ねたる金華山>など郷土賛歌の力作も目立った。さらに<丸洗ひしたき故里水を撒く><藷蔓で地球を曳きし園児かな>には豊かな詩心を感じた。
優秀賞の西條弘子さん。句の特徴はものの根源的な把握に力点を置くこと。本年度はその表現に磨きがかかった。<若竹の伸び代の空開けてある><いま皮を脱ぎたる蛇のさ緑に><音跳ねて鼓涼しき夕べかな>などにひかれた。
同じく優秀賞は川下光子さん。<稽古日の格子戸くぐる青木の実><待春や黄色は婆の散歩靴><補聴器の春の波音うれしがり>など、大らかな句柄と、日常の何でもない部分を切り取って構成してしまう力量に注目した。
◇受賞者の声/最優秀賞・伊藤春夫さん
あまり賞というものを受けたことがないので、受賞には驚きました。
俳句は60歳で始めました。それまでは陸上競技や山登り、テニスなどスポーツ専門。石巻市陸上競技協会の副会長も務めました。
思い付いたらノートに書き留め、週20句は作ります。3句に絞り、投稿しています。俳句は鉛筆と紙さえあれば、横になっていても書けます。こんな楽しいことはありません。頭の活性化にもつながります。
題材は散歩などで得ます。景色のちょっとした変化。小さな事象が好きです。例えば、雪の重みでしなった竹が何かの拍子で雪を弾きますね。蹴飛ばした石ころが川に落ち、ぽちゃんと音がして、水紋が広がります。こういうのが好きです。
俳句は絵画と同じで自分の心の表現です。太平洋、日和山、北上川、牧山。ここにいれば毎日書けます。石巻は題材の宝庫です。