晩年の父は心不全と診断され、ペースメーカーを入れました。2本の線をつなぐべきところを1本しかつなげず、近い将来、脳梗塞を起こす可能性があると言われました。
それは意外に早くやってきました。
わが家はまき風呂で、風呂を沸かすのは父の日課でした。父が午後7時近くになっても茶の間に戻らないので、たき口に行ってみると、立っているのがやっとのような姿でした。
たき口の最後の火であんかの豆炭に火をおこし、家の中に入る途中。「たまげだ、ひもも結べなぐなった...」。ろれつが回らない様子でした。
主治医に言われたことが起きたと思い、すぐ救急車を呼んで病院に向かいました。救急の先生に「最善を尽くしますか」と言われて驚きました。その頃、母は認知症で1人では置いておけない状態でした。私は母の様子を話し、「父と2人は見られない。父は天命に任せます」と先生に言いました。先生はすぐに了解されて「今夜がヤマ場でしょう」と言われました。
その夜は覚悟して父に付き添いました。茶色のたんを一晩出し続け、ベッドの縁をカーンと打ち鳴らすのです。何かいやな音で、父にやめるように言っても、また繰り返していました。
「水が飲みたい」と言われ、私は迷いました。頭上に「絶飲」の文字。最期の水になるかもしれないと思い、飲ませました。「あぁうまい」と父は満足げでした。
末期に喉を潤す。まさに死に水を取ることができたと思いました。
父とはいろいろと確執があり大変でした。でも親をみとるのが自分の責務と思い続けました。父は最後に私に水を取らせてくれたとありがたく思いました。
(高橋としみ 68歳 団体職員 石巻市真野)