俳句(4/28掲載)

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【石母田星人 選】


霾(つちふる)や慰霊碑の名の連なりに   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】霾とは大陸から飛んできた黄砂が降ること。碑に刻まれた名をなぞると指先に黄砂。「この砂粒は長旅をしてあなたの元にたどり着いたのよ」と故人に語りかける。厄介な黄砂だが、その背景には時空間の広がりがある。掲句はそれをうまく詩性につなげた。


沢水にころげ落ちたる藪椿   石巻市小船越/芳賀正利

【評】椿の花の一つが沢水までの斜面を転がった。臨場感ある中七の描写が俳句的感性の深奥に訴える。


クロッカス三月十一日の朝   石巻市桃生町/西條弘子

【評】特別な日の朝。式典に行くため扉を開けると春を告げるクロッカス。その健気さに元気をもらう。


震災を知って白増す花辛夷   多賀城市八幡/佐藤久嘉

辛夷咲く明日に繋がる青い空   石巻市渡波町/小林照子

早春や後ろ姿の山頭火   石巻市駅前北通り/小野正雄

静けさに湧く雲のあり空海忌   石巻市中里/佐藤いさを

半島の細き走り根春の海   石巻市流留/大槻洋子

花ミモザゆつくりと拭く窓ガラス   松島町磯崎/佐々木清司

廃校の轍に残る昭和かな   東松島市矢本/雫石昭一

鶯餅硝子ケースのあと二列   石巻市中里/川下光子

永き日や餅の中にはとちおとめ   石巻市新館/高橋豊

渋沢の伝記の中の桜しべ   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

群青の山を目指して登山靴   石巻市吉野町/伊藤春夫

春雨のすずめに手頃にはたづみ   石巻市広渕/鹿野勝幸

水溜り小さなちっちゃな花筏   石巻市駅前北通り/津田調作

春風に背伸びしている花木かな   石巻市門脇/佐々木一夫

春光を浴びて墓石の照り返し   石巻市元倉/小山英智

被災地に水仙二輪輝いて   石巻市水押/阿部磨

春浅き居久根の景を車窓から   石巻市のぞみ野/阿部佐代子

ミルに飛んで豆放物線四温なり   石巻市開北/ゆき

蒲公英や原っぱいっぱい陽の光   石巻市流留/和泉すみ子

花見酒屋台の端に陣取りし   石巻市湊/斎田流雲

剪定の鋏の音も弾みたり   石巻市向陽町/成田恵津美

北国の春駆け足で通り過ぎ   東松島市赤井/志田正次