【石母田星人 選】
代掻きてウユニ塩湖の如き田に 東松島市赤井/志田正次
【評】南米高地のこの塩湖は、浅く平らで雨が流れない。湖面に空を映した姿は天空の鏡とも呼ばれる。このイメージを比喩に使った句は多いが、いい作品に出合わない。この句の比喩は一味違う。自ら代掻きをして磨き上げた田んぼだ。宇宙をも映す自信がある。
花筏たぐり寄せれば夢が乗り 石巻市門脇/佐々木一夫
【評】花筏をたぐり寄せたのは作者ではなく、水の流れと風と日差し。下五は満ち足りてゆく心を表現。
添え書きに幼き文字のカーネーション 松島町磯崎/佐々木清司
【評】母の日に届いたカーネーション。中七「幼き文字の」には、イメージを膨らませる喚起力がある。
手毬寿司なかから春が弾みくる 石巻市丸井戸/水上孝子
荒磯の暮れても白し卯波かな 石巻市中里/佐藤いさを
三陸の海を眼下に山躑躅 石巻市小船越/芳賀正利
蛍火のあをあをと峡深くなる 石巻市相野谷/山崎正子
春寒や汀のここは津浪跡 石巻市吉野町/伊藤春夫
長靴の逆さに干され田植終ふ 石巻市桃生町/西條弘子
浜にゆく軍手長靴日焼け止め 多賀城市八幡/佐藤久嘉
春耕の父親真似て鍬を持つ 石巻市新館/高橋豊
田水引く蛙の歌を引きつれて 石巻市広渕/鹿野勝幸
春雷や西方浄土あかね雲 石巻市蛇田/石の森市朗
竜天に砂のアートのかぐや姫 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
四月馬鹿一人の道は遠すぎる 石巻市駅前北通り/小野正雄
退院の主婦にもどる日遠霞 石巻市流留/大槻洋子
スクワットみんな違って夏隣 石巻市中里/川下光子
人工の街に人工の春あられ 石巻市開北/ゆき
潮騒や老いて遠のくアサリ掻き 石巻市駅前北通り/津田調作
頂もビルも消されて黄砂降る 石巻市元倉/小山英智
山景色逆さに写し田植え前 石巻市湊/斎田流雲
野苺や笹舟流す用水路 石巻市のぞみ野/阿部佐代子
軒菖蒲遠き思い出父母の顔 東松島市あおい/大江和子
集い来る竹馬の友や山笑う 石巻市小船越/堀込光子
カタクリやクルリクルリと休みなく 石巻市向陽町/成田恵津美