俳句(5/12掲載)

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【石母田星人 選】


春が来る野山に太鼓打ち鳴らし   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】雪解けとともに山野に足を踏み入れた作者。 そこで感じた春の胎動を「太鼓打ち鳴らし」と詠う。太鼓の音は、母の胎内で聞いていた心臓の音に近いとされる。読む者の原初の記憶にも訴えかけてくる句。


仏飯の山盛り上げる木の芽時   石巻市新館/高橋豊

【評】仏前にお供えする炊きたてのご飯。きょうはいつもより高く盛って召し上がっていただく。庭には故人の植えた木々。どれも芽吹いて春の輝きを放つ。


草朧牛の乳房のおもさうに   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】昼の霞(かすみ)は夜になると朧(おぼろ)と呼ばれる。この句の舞台は夜。ぼんやりとした中に牛の存在が際立つ。


飄々と筆うごかして良寛忌   石巻市丸井戸/水上孝子

鯉のぼり風の機嫌のよき日なり   石巻市桃生町/西條弘子

うぐひすや大数珠を吊る太柱   石巻市相野谷/山崎正子

菜の花と海を遠くに波来の碑   松島町磯崎/佐々木清司

桜蕊降るや川村孫兵衛碑   石巻市中里/佐藤いさを

天界の何処で鳴くのか揚雲雀   石巻市吉野町/伊藤春夫

木の根開く名残りと期待ないまぜに   石巻市流留/大槻洋子

花吹雪運河の水面埋めにけり   石巻市小船越/芳賀正利

チェーホフの深き無意味や春の闇   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

雄の雉子五ヘクタールを一喝す   多賀城市八幡/佐藤久嘉

「生きっぺし」一行だけの春便り   石巻市渡波町/小林照子

泣くことも躊躇う菜の花明りかな   東松島市あおい/下山慶子

老眼鏡すこしそらして田植かな   東松島市矢本/雫石昭一

野の力いつも綱引き草若葉   石巻市桃生町/佐藤俊幸

ケーキ屋の小さな跡地春深む   石巻市中里/川下光子

今もあることば聖戦万愚節   石巻市開北/ゆき

落椿乗せてしっとり手の重し   石巻市門脇/佐々木一夫

庭先が今年はじめの草むしり   石巻市広渕/鹿野勝幸

雨上がる山北面の残花かな   石巻市駅前北通り/工藤久之

楊貴妃の眠り誘う花海棠   東松島市赤井/志田正次

カタクリの丘と名付けし寺の坂   石巻市向陽町/成田恵津美

麦の秋心尖りし値上げ波   東松島市あおい/大江和子