短歌(6/16掲載)

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【斉藤 梢 選】


この庭に幾種もの花咲き枯れて人の出会いと別れのごとし   東松島市矢本/川崎淑子

【評】長い年月、作者の庭にはさまざまな花が咲いた。花の蕾には、これから咲くという未来がある。咲いている花と過ごす日々の心は潤い満ちていたことだろう。そして、数日後には枯れる花。その様子を見てきた作者は「人の出会いと別れのごとし」と詠む。出会いが多いほど、別れという悲しみと寂しさを味わうことになる。「別れ」は、死別をも表わしているだろう。花を詠む時、一つの花を描写して、その花を見たことによる心の動きを表現する方法がある。この一首は、さらに深い思惟の時を経て生まれたのだと思う。


草刈りを終えたばかりの無人駅草の香のして日暮れ穏やか   石巻市流留/大槻洋子

【評】刈ったばかりの草の香を嗅ぐ穏やかな日暮れ。読者は、無人駅のある光景を懐かしく想像することができる。そして、駅を詠む歌として小池光の「廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり」を思い出す。「無人駅」は、かつては「無人駅」ではなかったのだろう。人が乗り降りする駅には、独特な風情がある。「日暮れ」という時間設定が効いている。


燕巣立ち自由な空へと我先に羽根は真っすぐ清風つかむ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「羽根は真っすぐ」が燕らしい。巣立ってゆく姿を見て「清風つかむ」と感じた作者。燕への声なきエールが表わされていて、清々しい気持ちにもなる。季節感のある歌であり、燕が飛び行く空は広い。


初夏の森大きく大きく息をして木々のみどりを五体に容れる   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】木々のみどりが、濃くなってゆく日々。大きく息をする作者の体に緑が満ちる。「森」が大きく息をしているようにも読める歌。かけがえのない緑の季節。


薄暑の夜ゆっくりたたむ藤衣(ふじごろも)はらからひとり又減りにけり   石巻市中里/佐藤いさを

浚われた大地に夢の近未来ひろがる地図はより饒舌に   多賀城市八幡/佐藤久嘉

久びさに点滴外れる吾(あ)の腕は枯れ木の如く細く萎びる   東松島市矢本/高平但

草花は嘘をつかぬといとおしみ吾を諭しき教師の父は   石巻市駅前北通り/庄司邦生

病棟の大きな窓に歩きたい踊りたいよとかなわぬ夢書く   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

代掻きの農具の操作の巧みさよ帰省の息子母の背を見て   石巻市水押/阿部磨

光合成緑色だけ反射して雨後の草木ひときわ眩し   東松島市赤井/志田正次

さほどでもなきぬくもりに安らげる煎餅布団をなつかしむわれ   石巻市湊東/三條順子

しなる竿釣りの醍醐味ここにあり昇る朝日に銀鱗おどる   石巻市わかば/千葉広弥

いてほしい私がここにいることをうれしと思う人がどこかに   石巻市流留/和泉すみ子

ゆく雲の流れみつめて飽きもせずわたしの心あの雲のなか   東松島市矢本/畑中勝治

去年(こぞ)の夏さぞ暑かろとバッサリと切った白バラ大輪で咲く   東松島市赤井/佐々木スヅ子

海荒るる日の多ければ住みつきし島の人らは陸(おか)で仕事す   女川町旭が丘/阿部重夫

娘(こ)と曾孫の戯れ遊ぶ姿みて遠い記憶が目をさましおり   石巻市桃生町/千葉小夜子