俳句(6/9掲載)

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【石母田星人 選】


暁光のあふれてゐたり竹落葉   石巻市中里/佐藤いさを

【評】竹は初夏に葉を落とす。上部の方から徐々に散らす。この句の舞台は朝方。黄色くなった葉が回転しながら舞ってくる。夜の間も散っていたのだろう。そこに差し込む朝の光。降りしきる竹の落葉に輝きと音が生まれる。遠くには暁の天。遠近の二景照応。


地球儀を大涅槃絵で包みたし   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】涅槃(ねはん)図を前にして絵解きを聞いたのだろう。その厳かな気持ちが「包みたし」の表現を生んだ。


ケータイに囀(さへづり)しまふ山ガール   石巻市開北/ゆき

【評】「しまふ」で全てが分かる。この山ガールのしぐさはとても自然だがどこか誇らしげにも見える。


声弾む里の山々風薫る   東松島市矢本/雫石昭一

寒風沢の幹艶めいて松の花   多賀城市八幡/佐藤久嘉

通り雨青蘆原を濡らしけり   石巻市小船越/芳賀正利

大地今新たなる顔田水張る   石巻市小船越/堀込光子

植田道横切つて行く郵便夫   石巻市桃生町/西條弘子

早苗田の一枚ごとの月明り   石巻市相野谷/山崎正子

藤棚の三尺下や風走り   石巻市門脇/佐々木一夫

春愁や雲は音なく流れゆく   石巻市蛇田/石の森市朗

醤油屋のめんつゆ買うて花の旅   石巻市中里/川下光子

春の宵プルタブの音二度鳴らし   石巻市新館/高橋豊

麦秋やさびしき時はバット振る   石巻市吉野町/伊藤春夫

花は葉にコバルトライン森閑と   石巻市流留/大槻洋子

住吉の春の川辺の鐘撞堂   石巻市元倉/小山英智

ソーダ水茶房の隅の長き午後   松島町磯崎/佐々木清司

初鰹昔の味に笑みの浮く   石巻市駅前北通り/津田調作

四十雀吾子と見上げる大欅   石巻市湊/斎田流雲

かわせみの飛びかう堀や水清し   石巻市のぞみ野/阿部佐代子

独り居をカーネーションに見守られ   石巻市向陽町/成田恵津美

ワクワクと明日の身支度夏銀河   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

日傘さし背筋伸ばして余生ゆく   石巻市渡波町/小林照子

ナデシコや母の遺せし形見鉢   東松島市赤井/志田正次

豆飯や明日も明後日も飯を炊く   石巻市恵み野/森吉子