短歌(7/14掲載)

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【斉藤 梢 選】


夕月のささやくような空に問う余りある日をいかに生きるか   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】この日、作者は心に抱き続けている「余りある日をいかに生きるか」という問いを、空へと投げかける。自分のこれまでの生き方について考えたり、残りの時間について思ったりすることが、暮らしの中にはある。親しい人を亡くしたのかもしれない。そうであれば、なおさら死が身近に感じられ「余りある日」を意識することになるだろう。声にすることはない、心の中にある切実な思いを空を相手に静かに語る夕。月の様子を「ささやくような」と、表現できる感性に注目したい。月を見上げながら作者は思惟の人となる。


今日もまた老いを背負いて生きゆかんひと日の老いは僅かなれども   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】93歳の作者だから詠める一首。老いゆく現実を受け止めて、日々を誠実に懸命に生きているからこその「老いを背負いて」。下句は、老いを嘆かず老いと向き合っているゆえの「僅かなれども」だと思う。「生きゆかん」は、自分自身への励まし。言葉を尽くして詠んだ歌が、時には自分を支えることもある。生きるための一歩一歩の意志を感じる。


長生きは嬉しき事か古き友ら逝きて時折夢で集いぬ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】生きているから見る「夢」なのだが、逝ってしまった友らと夢で会えるのは、嬉しいけれども切ない。「長生きは嬉しき事か」の表現は、さまざまな事を読者に考えさせる。複雑な胸のうちを表現している。


夕ちかく磯より帰り来る人の躰(からだ)逆光にふとぶとと見ゆ   女川町旭が丘/阿部重夫

【評】仕事を終えて磯より帰り来る人が「ふとぶと」と見えた。人間の逞しさを詠んでいて「逆光に」で、その時の様子が想像できる。描写力ある一首。


漁り火の見え隠れする青すだれ真鯛のあらい妻子(つまこ)とくずす   石巻市中里/佐藤いさを

麦秋の内陸過ぎて沿岸は緑広がる放棄地続く   石巻市流留/大槻洋子

竹の花百二十年我慢して自己破滅への道を選ぶや   東松島市赤井/志田正次

わが父の祥月命日穏やかに親父の歳を今日越えてゆく   東松島市矢本/畑中勝治

鉄骨とトタンの隙間を出入りする雀の番(つがい)のくちばしに餌   女川町浦宿浜/阿部光栄

風渡る里の竹藪笹のうた遠く雲雀の声も聞こえる   東松島市赤井/茄子川保弘

はりつめし蓮の葉はみな生き生きと浄土への舟か乗りて行きたし   石巻市南中里/中山くに子

これでもかと剪りし山吹の春の枝もこりもっこり黄色いスクラム   石巻市開北/ゆき

ばあちゃんのひじき煮好きと食進む昭和の味でひと役果たす   石巻市錦町/山内くに子

アスファルトの上にミミズの干涸びてなお容赦なく陽は照りつけて   石巻市向陽町/成田恵津美

こでまりが白で勝負の花咲かせさあ出来ましたウェディングドレス   石巻市西山町/藤田笑子

隣どうし同じ花ある庭眺めブルーベリーももう少しだねと   石巻市羽黒町/松村千枝子

凜と咲き朝日を仰ぐズッキーニ雄花よ続けと胸の急かるる   東松島市矢本/田舎里美

三陸路久々に娘(こ)らとする旅よ静(せい)なる潮風(かぜ)にカモメ飛び交ふ   石巻市飯野/川崎千代子