【石母田星人 選】
誰が折りし蛙百匹デイルーム 石巻市流留/大槻洋子
【評】折り紙の蛙が百匹。季語にこだわる向きにはこの蛙は季語ではないと言われそうだ。しかし私にははっきりと聞こえる。窓外の田で鳴く蛙たちの声が。
雲の峰給湯室に小さき窓 松島町磯崎/佐々木清司
【評】夏空にむくむくと雄大に盛り上がる入道雲。その動きを、狭い給湯室の小窓に閉じ込めてしまったようで楽しい。詩的で印象鮮明な句に仕上がった。
億年も琥珀の中の黒き蟻 石巻市小船越/芳賀正利
【評】久慈産の琥珀だろう。まだ恐竜がいた時代、樹脂に埋もれ化石化した蟻。まさにタイムカプセルのような趣だ。上五の「も」に作者の思いがこもる。
波音の変る刻あり慈悲心鳥 石巻市中里/佐藤いさを
桜桃忌未完の遺作耽読す 東松島市赤井/志田正次
背を伸ばし列乱さずに青田かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
鳶は輪を大きくゑがき麦の秋 石巻市相野谷/山崎正子
暮色とは北上川の麦の秋 石巻市桃生町/西條弘子
白鷺の命中狙うS字かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
万緑や巣立ちの口の大宇宙 石巻市開北/ゆき
海底の盛り上がり来る箱眼鏡 石巻市吉野町/伊藤春夫
敷居越しのどくだみの花不眠症 石巻市中里/川下光子
掻掘やバケツ片手に兄を追い 石巻市新館/高橋豊
友が逝き思い出ひとつ夏芝居 石巻市桃生町/佐藤俊幸
桜桃の樹々迎へ来るバスの旅 石巻市丸井戸/水上孝子
鍵開けて光の春へ出でゆきぬ 石巻市駅前北通り/小野正雄
夏来たる絆まつりの城下町 石巻市蛇田/石の森市朗
杜若文学館の碑は丸く 石巻市恵み野/森吉子
木の芽あえ母の香りも混り込み 石巻市門脇/佐々木一夫
初営業差し出す名刺若葉時 石巻市湊/斎田流雲
木下闇先にありしは鰻塚 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
浜昼顔素顔のままでおままごと 石巻市流留/和泉すみ子
庭の百合支えのなくて頭垂れ 石巻市水押/阿部磨
海鞘が来た夏の夕べを抱き込んで 石巻市駅前北通り/津田調作
初物の西瓜いつこを食ひ尽くし 石巻市向陽町/成田恵津美