俳句(7/7掲載)

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【石母田星人 選】


誰が折りし蛙百匹デイルーム   石巻市流留/大槻洋子

【評】折り紙の蛙が百匹。季語にこだわる向きにはこの蛙は季語ではないと言われそうだ。しかし私にははっきりと聞こえる。窓外の田で鳴く蛙たちの声が。


雲の峰給湯室に小さき窓   松島町磯崎/佐々木清司

【評】夏空にむくむくと雄大に盛り上がる入道雲。その動きを、狭い給湯室の小窓に閉じ込めてしまったようで楽しい。詩的で印象鮮明な句に仕上がった。


億年も琥珀の中の黒き蟻   石巻市小船越/芳賀正利

【評】久慈産の琥珀だろう。まだ恐竜がいた時代、樹脂に埋もれ化石化した蟻。まさにタイムカプセルのような趣だ。上五の「も」に作者の思いがこもる。


波音の変る刻あり慈悲心鳥   石巻市中里/佐藤いさを

桜桃忌未完の遺作耽読す   東松島市赤井/志田正次

背を伸ばし列乱さずに青田かな   石巻市広渕/鹿野勝幸

鳶は輪を大きくゑがき麦の秋   石巻市相野谷/山崎正子

暮色とは北上川の麦の秋   石巻市桃生町/西條弘子

白鷺の命中狙うS字かな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

万緑や巣立ちの口の大宇宙   石巻市開北/ゆき

海底の盛り上がり来る箱眼鏡   石巻市吉野町/伊藤春夫

敷居越しのどくだみの花不眠症   石巻市中里/川下光子

掻掘やバケツ片手に兄を追い   石巻市新館/高橋豊

友が逝き思い出ひとつ夏芝居   石巻市桃生町/佐藤俊幸

桜桃の樹々迎へ来るバスの旅   石巻市丸井戸/水上孝子

鍵開けて光の春へ出でゆきぬ   石巻市駅前北通り/小野正雄

夏来たる絆まつりの城下町   石巻市蛇田/石の森市朗

杜若文学館の碑は丸く   石巻市恵み野/森吉子

木の芽あえ母の香りも混り込み   石巻市門脇/佐々木一夫

初営業差し出す名刺若葉時   石巻市湊/斎田流雲

木下闇先にありしは鰻塚   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

浜昼顔素顔のままでおままごと   石巻市流留/和泉すみ子

庭の百合支えのなくて頭垂れ   石巻市水押/阿部磨

海鞘が来た夏の夕べを抱き込んで   石巻市駅前北通り/津田調作

初物の西瓜いつこを食ひ尽くし   石巻市向陽町/成田恵津美