【石母田星人 選】
夏祭りえびすの顔を持ち歩き 石巻市駅前北通り/津田調作
【評】夏祭りの会場に入る。擦れ違う人々は童心に返ったように、みんなにっこりと幸せそうな顔をしている。いつしか自分も笑顔になっているのに気づく。
引き揚げはリュック水筒終戦日 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】作者5歳の時の回想の句。引き揚げの記憶は身に着けていたリュックと水筒から始まり、生々しくよみがえる。戦争体験を物に語らせた重い詠嘆だ。
足踏みの声を揃へて夏旺ん 石巻市中里/川下光子
【評】活力みなぎる夏という意の季語「夏旺(なつさか)ん」のイメージが支配する一句。足踏みの主は高齢者よりも真っ白いユニフォーム姿の子どもたちが浮かぶ。
海光る離島の茄子の火照りかな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
蟬時雨只一心に時を打つ 石巻市中里/須藤清雄
手も足もほったらかして籠枕 石巻市中里/佐藤いさを
万緑や天に真っ直ぐ草木塔 松島町磯崎/佐々木清司
縦走を終へてバス待つ缶ビール 石巻市流留/大槻洋子
涼風や太平洋の息吹かな 石巻市流留/和泉すみ子
涼しさや渚を跳ねる波白き 石巻市門脇/佐々木一夫
小太りの夏大根に育ちけり 石巻市小船越/芳賀正利
蓮の沼妻と違へて乗る小舟 石巻市蛇田/石の森市朗
沁み渡る愛の讃歌や夏祭り 石巻市丸井戸/水上孝子
稲の花雲の切れ間の光浴ぶ 石巻市駅前北通り/小野正雄
夏空に五輪描いてインパルス 石巻市元倉/小山英智
栗駒の風を背に袋掛け 石巻市桃生町/西條弘子
片蔭や街から消えし百貨店 石巻市新館/高橋豊
いつやらに喪の席上座白扇子 石巻市開北/ゆき
津波跡僧侶の手なる紅蓮華 石巻市小船越/堀込光子
凌霄花夕陽のやうに落ちてゆく 東松島市あおい/大江和子
雀には釜洗い飯夏の夜 石巻市渡波町/小林照子
憂鬱と薔薇が書けた日梅雨明ける 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
病院の待合室の花氷 東松島市あおい/下山慶子
中指で西瓜弾いて品定め 東松島市赤井/志田正次
石組のいつもの場所や蛇の殻 石巻市真野/高橋としみ