【石母田星人 選】
夏雲へ舳先向けたる寄港船 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】何千人もの客を運んで来た巨大クルーズ船。観光地を巡り楽しんだ人々を乗せ、次の港へ向かう。沖の夏雲の存在が、期待感や緊張感を膨らませる。
余生など解らぬものと揚羽言う 石巻市渡波/阿部太子
【評】卵を産むため山椒に揚羽が舞う。その動きを見ているうちに自らの余生を思った。下五「言う」で揚羽との会話の成立を表現。揚羽がこたえてくれたという虚が、この句の面白さ、醍醐味といってよい。
鉄条網のごとき空気や熱帯夜 石巻市向陽町/成田恵津美
【評】熱帯夜の空気を比喩で鉄条網と表現した。大げさなようだが、連夜の寝苦しさはもう限界に近い。
語り部の沖縄戦の土灼ける 石巻市渡波町/小林照子
底紅や穏やかな日を沖縄に 石巻市流留/大槻洋子
御番所の閉ざされてゐる青葉闇 石巻市桃生町/西條弘子
きのふより桟橋越ゆる土用波 石巻市小船越/芳賀正利
波しぶき浴びて舟虫磯になり 石巻市門脇/佐々木一夫
高窓より月光の音明け易し 石巻市開北/ゆき
朝顔やのぼる竹竿天の果て 石巻市駅前北通り/津田調作
存分に背りて百合の香四散せり 石巻市広渕/鹿野勝幸
蕭々とそぼ降る雨に杜若 東松島市赤井/志田正次
運慶の明王菩薩真炎天 石巻市中里/佐藤いさを
白南風や海壁護る漁師の図 石巻市新館/高橋豊
街頭のニュースキャスター藍浴衣 石巻市中里/川下光子
重なりてますます深き半夏雨 石巻市丸井戸/水上孝子
放棄地にソーラーパネル灼けており 松島町磯崎/佐々木清司
灯台の白と競うや夏の雲 多賀城市八幡/佐藤久嘉
上品山の風車を隠す夏の雲 東松島市矢本/奥田和衛
石切りの弾ける先の夕焼雲 石巻市元倉/小山英智
ひらいては閉じてゆらめく水母かな 石巻市吉野町/伊藤春夫
水色の簾に替えて通す風 石巻市湊/斎田流雲
梅雨晴やロイド眼鏡とステッキと 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
手刈りする素手に絡まる雨蛙 石巻市桃生町/佐藤俊幸
今日の空海へと続く虹ありて 石巻市流留/和泉すみ子