俳句(8/4掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】


夏雲へ舳先向けたる寄港船   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】何千人もの客を運んで来た巨大クルーズ船。観光地を巡り楽しんだ人々を乗せ、次の港へ向かう。沖の夏雲の存在が、期待感や緊張感を膨らませる。


余生など解らぬものと揚羽言う   石巻市渡波/阿部太子

【評】卵を産むため山椒に揚羽が舞う。その動きを見ているうちに自らの余生を思った。下五「言う」で揚羽との会話の成立を表現。揚羽がこたえてくれたという虚が、この句の面白さ、醍醐味といってよい。


鉄条網のごとき空気や熱帯夜   石巻市向陽町/成田恵津美

【評】熱帯夜の空気を比喩で鉄条網と表現した。大げさなようだが、連夜の寝苦しさはもう限界に近い。


語り部の沖縄戦の土灼ける   石巻市渡波町/小林照子

底紅や穏やかな日を沖縄に   石巻市流留/大槻洋子

御番所の閉ざされてゐる青葉闇   石巻市桃生町/西條弘子

きのふより桟橋越ゆる土用波   石巻市小船越/芳賀正利

波しぶき浴びて舟虫磯になり   石巻市門脇/佐々木一夫

高窓より月光の音明け易し   石巻市開北/ゆき

朝顔やのぼる竹竿天の果て   石巻市駅前北通り/津田調作

存分に背りて百合の香四散せり   石巻市広渕/鹿野勝幸

蕭々とそぼ降る雨に杜若   東松島市赤井/志田正次

運慶の明王菩薩真炎天   石巻市中里/佐藤いさを

白南風や海壁護る漁師の図   石巻市新館/高橋豊

街頭のニュースキャスター藍浴衣   石巻市中里/川下光子

重なりてますます深き半夏雨   石巻市丸井戸/水上孝子

放棄地にソーラーパネル灼けており   松島町磯崎/佐々木清司

灯台の白と競うや夏の雲   多賀城市八幡/佐藤久嘉

上品山の風車を隠す夏の雲   東松島市矢本/奥田和衛

石切りの弾ける先の夕焼雲   石巻市元倉/小山英智

ひらいては閉じてゆらめく水母かな   石巻市吉野町/伊藤春夫

水色の簾に替えて通す風   石巻市湊/斎田流雲

梅雨晴やロイド眼鏡とステッキと   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

手刈りする素手に絡まる雨蛙   石巻市桃生町/佐藤俊幸

今日の空海へと続く虹ありて   石巻市流留/和泉すみ子