俳句(9/15掲載)

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【石母田星人 選】


夏木立曾孫に語る戦後かな   石巻市小船越/芳賀正利

【評】終戦時、作者は十歳。曾孫もそのくらいの年なのだろう。つらい戦後の生活を語ったのだ。いつも優しいおじいちゃんが真剣なまなざしで話してくれた体験。きっとこの子の心にいつまでも残るだろう。


雲海の吃水線に山の小屋   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】「吃水線」がうまい。この一語のイメージで眼前の景がぐんと広がる。読者の想像力を刺激する。


がらんどう帰省子去りて法師蝉   石巻市小船越/堀込光子

【評】子どもたちが帰り、静かな暮らしに戻った。室内も心の中も広々とがらんとしている。そこへ法師蝉の声。がらんどうの思いがさらに広がってゆく。


魂送り終えて無口となりにけり   石巻市中里/佐藤いさを

迎え火に家族で選ぶ星一つ   石巻市湊/斎田流雲

星飛んで人の恋しき日なりけり   石巻市桃生町/西條弘子

空蟬の声沈みをり森の闇   石巻市門脇/佐々木一夫

桃の実のふくらむほどの光かな   石巻市駅前北通り/小野正雄

重力に逆らい天指す若芒   東松島市赤井/志田正次

祭り笛飴の中より桃太郎   石巻市吉野町/伊藤春夫

切岸に猛る白波野分立つ   石巻市元倉/小山英智

船玉へ供ふ一本初秋刀魚   石巻市蛇田/石の森市朗

風涼し襖絵の鶏動き出す   松島町磯崎/佐々木清司

倒伏の稲に力や天にらむ   石巻市広渕/鹿野勝幸

天空に富士の笠雲縦走路   石巻市流留/大槻洋子

風鈴も涼風せがみチリコロリン   石巻市渡波町/小林照子

炎昼やシネマのシートに身を沈め   石巻市丸井戸/水上孝子

婿どののときおり敬語盆用意   石巻市開北/ゆき

桃売り場触れず上から横からと   石巻市向陽町/成田恵津美

空蝉や今日は人無き慰霊塔   石巻市新館/高橋豊

太刀魚の刀剣すらり魚市場   東松島市あおい/大江和子

6機体スモーク吐いて残暑かな   石巻市蛇田/櫻井節子

看護師へ一枚のメモ柿一つ   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

酔芙蓉赤くかはれば落つるのみ   石巻市流留/和泉すみ子

道端の草の健気の虫時雨   石巻市桃生町/佐藤俊幸