【石母田星人 選】
夏木立曾孫に語る戦後かな 石巻市小船越/芳賀正利
【評】終戦時、作者は十歳。曾孫もそのくらいの年なのだろう。つらい戦後の生活を語ったのだ。いつも優しいおじいちゃんが真剣なまなざしで話してくれた体験。きっとこの子の心にいつまでも残るだろう。
雲海の吃水線に山の小屋 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】「吃水線」がうまい。この一語のイメージで眼前の景がぐんと広がる。読者の想像力を刺激する。
がらんどう帰省子去りて法師蝉 石巻市小船越/堀込光子
【評】子どもたちが帰り、静かな暮らしに戻った。室内も心の中も広々とがらんとしている。そこへ法師蝉の声。がらんどうの思いがさらに広がってゆく。
魂送り終えて無口となりにけり 石巻市中里/佐藤いさを
迎え火に家族で選ぶ星一つ 石巻市湊/斎田流雲
星飛んで人の恋しき日なりけり 石巻市桃生町/西條弘子
空蟬の声沈みをり森の闇 石巻市門脇/佐々木一夫
桃の実のふくらむほどの光かな 石巻市駅前北通り/小野正雄
重力に逆らい天指す若芒 東松島市赤井/志田正次
祭り笛飴の中より桃太郎 石巻市吉野町/伊藤春夫
切岸に猛る白波野分立つ 石巻市元倉/小山英智
船玉へ供ふ一本初秋刀魚 石巻市蛇田/石の森市朗
風涼し襖絵の鶏動き出す 松島町磯崎/佐々木清司
倒伏の稲に力や天にらむ 石巻市広渕/鹿野勝幸
天空に富士の笠雲縦走路 石巻市流留/大槻洋子
風鈴も涼風せがみチリコロリン 石巻市渡波町/小林照子
炎昼やシネマのシートに身を沈め 石巻市丸井戸/水上孝子
婿どののときおり敬語盆用意 石巻市開北/ゆき
桃売り場触れず上から横からと 石巻市向陽町/成田恵津美
空蝉や今日は人無き慰霊塔 石巻市新館/高橋豊
太刀魚の刀剣すらり魚市場 東松島市あおい/大江和子
6機体スモーク吐いて残暑かな 石巻市蛇田/櫻井節子
看護師へ一枚のメモ柿一つ 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
酔芙蓉赤くかはれば落つるのみ 石巻市流留/和泉すみ子
道端の草の健気の虫時雨 石巻市桃生町/佐藤俊幸