短歌(9/22掲載)

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【斉藤 梢 選】


正しいと信じたものに迷うとき朝月淡く心許なし   石巻市流留/大槻洋子

【評】誰かに心の裡を話すように詠んでいる。自分にしか分からない迷いを抱きながら、月を見る作者。「朝月」は淡くて、なんだか頼りなくも見える。月は、時として見る人の心を映す。もし、この時の月が淡いと感じるものでなかったら、作者の気持ちも変わったのかもしれない。昔、和歌を詠んだ人たちも、月を見て思いを深くした。「正しいと信じたもの」の具体は表現されていないが、この一首に込められた心情は、読者に伝わると思う。心の揺れが感じられる心象詠。


音だけのスイカ選びの荷の重さどっちを切るか平和な思案   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「どっちを」とあるので、作者の前には二つのスイカがある。食べ頃かどうかは、叩いた時の音でわかるとされているスイカ。もちろん、割ってみて食べてみて知るその甘さ。夏の旬を前にして「荷の重さ」を感じつつも、選択の悩みを「平和な思案」と表現している。この結句がいい。日常生活の中でしみじみと「平和」を感じることの幸。大きなスイカを二つに切る時の感覚をも、思わせてくれる夏を詠んだ一首。


草引きて蟬のぬけがら手に取ればべっ甲色の輝きはなつ   石巻市桃生町/千葉小夜子

【評】蟬のぬけがらを手に取り、あらためて見つめている作者。「べっ甲色」という具体が「ぬけがら」を想像させてくれる。「手に取れば」と、行為を詠み込んだところが優れていて、命を愛しむ心を感じる。


洗濯の干し物かごに蝶止まり干すに干されずじっと見守る   東松島市矢本/畑中勝治

【評】この日この時の蝶の訪れを<恵み>のように思う作者か。「干すに干されず」の静かな時間。やがて飛び去ってゆく蝶と作者との優しいひととき。


樹より落ち地を背にしたる昆虫ら日照り降参秋風を待つ   石巻市須江/須藤壽子

字も曲がり声も小さくなりし今現実認めて生きるしかなし   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

風薫る凪静かなる磯浜は雲丹の開口漁夫らが集う   女川町旭が丘/阿部重夫

ディズニーでピースサインの孫が子産み瞬時に母の顔つきになる   東松島市赤井/佐々木スヅ子

ペディキュアの紺にヨガポーズさっと決め齢(とし)に拮抗のつまさき眩し   石巻市開北/ゆき

「また来るね」闇に溶けゆく孫二人手を振る仕草母そっくりよ   石巻市門脇/佐々木一夫

どうやって食ってゆこうか大きめのソフトクリームの垂れざまを見る   石巻市湊東/三條順子

幾本ももみじは枝に夢のせて木末(こぬれ)はお手をどうぞと伸ばす   東松島市矢本/田舎里美

同級会喜びだけでは済まぬなり米寿の一泊悩む欠席   石巻市羽黒町/松村千枝子

友からの残暑見舞いは写真付き妻の育てた西瓜の自慢   東松島市赤井/茄子川保弘

五所川原吹雪で鍛えしジョッパリの意地の高さかあの立佞武多   多賀城市八幡/佐藤久嘉

成人の祝いにもらいしアルバムのセピア色した写真ひとひら   石巻市高木/鶴岡敏子

大好きなコスモスたちは笑みうかべ虹色花びら揺れて鮮やか   石巻市西山町/藤田笑子

北上川流れおだやか悠々と暮らし支える母なる恵み   石巻市不動町/新沼勝夫