【石母田星人 選】
秋澄む日実習船の汽笛かな 石巻市中里/佐藤いさを
【評】乗船体験を通して、ぐんと成長する実習生。彼らの眼差しと、季語秋澄む日が爽やかに響き合う。
赤とんぼ山の空気を連れて来る 石巻市湊/斎田流雲
【評】夏場を山で過ごす赤とんぼ。気温が下がると平地に移動し開けた場所などで群れをなす。「空気を連れて来る」の表現が巧みで群れの大きさが分かる。
歩きたいしゃべりたいよと木の実雨 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
【評】大木の下。強い風が吹いて、熟した木の実がパラパラと雨のように落ちてくる。木の実たちは、地面に弾んだり転がったりしながら微かな音を立てる。その音が話し声に聞こえたのだろう。寓話の趣も。
薄皮をはぐごと秋の空気かな 石巻市向陽町/成田恵津美
蛸食むや九月の空に爺の顔 石巻市駅前北通り/津田調作
鰯雲声かけあつて守備につく 石巻市小船越/芳賀正利
秋夕焼サッカーボールが帰り来る 石巻市蛇田/石の森市朗
墨痕に秋を探して書道展 石巻市丸井戸/水上孝子
誉められて檀の実爆ず手中かな 石巻市中里/川下光子
雨音や声なめらかに虫すだく 石巻市門脇/佐々木一夫
夕暮の里に余喘の秋の蝶 石巻市元倉/小山英智
歌碑ならぶ高きに登り青き海 石巻市流留/大槻洋子
満天の星も独りや山の小屋 多賀城市八幡/佐藤久嘉
古稀迎え紫式部愛でる朝 東松島市赤井/志田正次
草刈の音を重ねて清掃日 石巻市広渕/鹿野勝幸
草刈の終わった畦に蚯蚓鳴く 石巻市桃生町/佐藤俊幸
曼珠沙華母の終期を医師が告ぐ 石巻市新館/高橋豊
番号で呼ばるる健診残暑なほ 石巻市桃生町/西條弘子
ヨガの時間すめば老体衣被 石巻市開北/ゆき
手のひらに芋虫ふわりうすみどり 松島町磯崎/佐々木清司
おかわりと頬に飯つぶ今年米 東松島市あおい/大江和子
マスクとり互いに名のる秋うらら 石巻市流留/和泉すみ子
菊香る仏間の遺影ほほ笑みて 石巻市水押/阿部磨
かなかなや夕の作業着汗重し 石巻市恵み野/森吉子
美しき月下美人の無口かな 東松島市矢本/菅原京子