【石母田星人 選】
ふうりんがかぜをはこびしおほひろま 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】大広間の隅で微かに風鈴が鳴った。しばらくして自分のもとへ風が及んだ。風鈴は音で涼を感じるもの。この句は、鳴ってから涼を感じるまでの時間に焦点を当てた。風のやさしさを仮名で表した意欲作。
銀漢や古き小路に古き夜話 松島町磯崎/佐々木清司
【評】中七以下は地上の景だが、澄んだ夜空を見ていると、銀河にも小路や夜話がありそうに感じる。
をみならの汗が漕ぎだす孫兵衛船 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】やはり若手が目立つレース。この句は懸命にオールをこぐ年配女性に注目。「汗が漕ぎだす」には「まだまだ負けていられない」という思いが乗る。
梅干の滅法辛い終戦日 石巻市吉野町/伊藤春夫
遠き日は遠き日のまま終戦日 石巻市中里/佐藤いさを
蜩の大合唱に里ゆれる 石巻市小船越/芳賀正利
一つ葉に蟬殻二つすがりをり 石巻市広渕/鹿野勝幸
蝉しぐれ永遠の世願う祈りかな 石巻市新館/高橋豊
干涸びて空屋の増えし蝸牛 石巻市門脇/佐々木一夫
灯籠に書く新しき筆ほぐす 石巻市桃生町/西條弘子
心音や窪む古道の苔青し 石巻市流留/大槻洋子
鰤揚がる市場驚く海の変 石巻市駅前北通り/小野正雄
炎天や遠近法にレールかな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
帰省子のみやげは孫の笑顔かな 石巻市元倉/小山英智
夏帽子風に誘われ街歩き 石巻市湊/斎田流雲
クーラーの客室に待つ五分前 石巻市中里/川下光子
墓参坂の上には雲ありて 石巻市流留/和泉すみ子
爽涼を求め古刹の岩清水 東松島市赤井/志田正次
女郎蜘蛛まぶしき空に網を張り 石巻市駅前北通り/津田調作
暑き朝静かに茄子の花の咲く 石巻市真野/高橋としみ
片陰を飛び石のごと歩きけり 石巻市向陽町/成田恵津美
入道雲川原毛地獄の大湯あり 石巻市中里/鈴木登喜子
幼子の命の味や白桃缶 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
球児打つボールは捕られ夏終る 石巻市桃生町/佐藤俊幸
照りつける陽に草を刈る八十路かな 石巻市三ツ股/浮津文好