短歌(9/8掲載)

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【斉藤 梢 選】


妻と居て吾の幸せ胸に抱き明日を語らん生きいる証を   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】なんて温かい歌なのだろうと思う。そして、詠むということは、このように気持ちを言葉にして残すことだと感じる。「幸せ」は、言葉にし難い。なぜなら、心情を表す時に誰でもが抱く<ためらい>があるからで、自分だけの本当の幸、苦しみ、悲しみを具体的にストレートに詠むのには、覚悟が要る。しかし、この一首には実感としての「幸せ」が溢れていて、読者の心にやさしく届く。下句の「明日を語らん」には、明日に向かって歩いて行こうという意思がある。長く生きてこられた作者ならではの、味わいのある一首だ。


喝采の大き花火におさな児の「夜がびっくりする」の耳うち   石巻市開北/ゆき

【評】「おさな児」のすばらしい感性。大きな花火が夜の闇にひらいた瞬間「夜がびっくりする」と感じたこの子。「耳うち」の声に作者の心が動いた。この歌の幼い子の思いがけない言葉が、花火の様子を鮮明に伝えている。人々の喝采と、花火の大きな音に驚いたのは「夜」。花火が終わったあと「夜」は高ぶった心を鎮めて、再び静かな闇に戻っていったのだろう。


闇にもどる線香花火いつの日も幸と不幸を決めるのは自分   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】自分の心を見つめる時間を詠む。「闇にもどる」という捉え方が的確。作者は線香花火の明暗に人生の「幸と不幸」を重ねている。模索しながら生き方を定めてゆくような日々の中で生まれた作品だろう。


試合まで耐えて汗した練習の実り掴むか十秒の中で   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】練習の成果を得ることができるかどうかの「十秒」。「耐えて汗した」選手に心を寄せる作者の「十秒」。「十秒」という具体が効いているスポーツの歌。


強き香を遠くにはなち梅落ちる春には花に鳥をあそばせ   石巻市流留/大槻洋子

球児らの知恵と体力躍動す夢と運とを確と見極め   石巻市南中里/中山くに子

輪投げする孫の瞳が輝きて昔懐かし縁日の風情   東松島市赤井/志田正次

霧深き荒磯の破舟鷗(ごめ)羅列一羽一羽に霧しずくして   石巻市中里/佐藤いさを

墓まいりおかっぱ頭がわれに言う「お空に電話があればいいのに」   石巻市湊東/三條順子

稲妻が夜空切り裂き光ってる音は後からわずかに低く   東松島市矢本/畑中勝治

無線局の中庭の曇りおもおもし山百合の花茎高く咲く   女川町旭が丘/阿部重夫

物価高拍車を掛ける雨嵐手塩の苦労一夜に流る   石巻市水押/阿部磨

大津波で居を仙台に十三年空はちょっぴり屋根屋根ばかり   仙台市青葉区/石田良子

出番待つ冷凍食に似た気分散歩出来る日待ち遠しくて   東松島市赤井/佐々木スヅ子

草花にじょうろいっぱい水かけて朝夕に聞くありがとねの声   石巻市西山町/藤田笑子

幼児が竹の飾りに手を伸ばし笑みを浮かべる七夕の街   東松島市赤井/茄子川保弘

炎天下草刈りうけおう八十路われ冷えし麦茶の差し入れうれし   石巻市三ツ股/浮津文好

真夏日に久の雨降り冷やしおり暑さ遠のき大地潤う   石巻市錦町/山内くに子