【石母田星人 選】
歌声の聞こえぬ校舎秋思湧く 石巻市渡波町/小林照子
【評】秋思は秋の寂しさに誘われた物思いのこと。震災遺構の校舎での作句だろうか。上五の「歌声」は秋の気配の中に浮かんできた作者の記憶。きよらかなハーモニーが子どもの姿とともによみがえった。
惑星を少し離れて蜘蛛の糸 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】高い所に張られた蜘蛛(くも)の巣。それを「惑星を少し離れて」と大胆に詠む。少しでも地上を離れればこの星を出たことになる。奇抜で柔軟な発想が光る。
秋の雲いわしかうろこラスク食(は)む 東松島市矢本/菅原京子
【評】香ばしい焼き菓子をカリカリと食べる。その音が窓外の雲の形を楽しく表現。俳句はリズムだ。
網繕う余生つばくら帰りけり 石巻市中里/佐藤いさを
秋雲と流れて行くや幼き日 石巻市駅前北通り/津田調作
箟岳の社の下の穂波かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
田の神の香る新米噛み締める 石巻市元倉/小山英智
龍淵に潜み霖雨の差配かな 東松島市赤井/志田正次
原爆忌天に祈りて肉を焼く 石巻市駅前北通り/小野正雄
果しなき秋の夜空に月と星 石巻市小船越/芳賀正利
古の土器目に触れて秋の風 石巻市蛇田/櫻井節子
借景に名月そえて肘枕 石巻市湊/斎田流雲
青葡萄つまみ一句の定まらず 石巻市桃生町/西條弘子
同人誌の母の遺作や秋の夜半 石巻市渡波/阿部太子
鶏頭の風のやはらぐ供物花 石巻市丸井戸/水上孝子
百寿なる敬老の日の「支那の夜」 石巻市流留/大槻洋子
百日紅昨日のことはもう忘れ 石巻市のぞみ野/阿部佐代子
日の色を着て脱ぐまでの酔芙蓉 松島町磯崎/佐々木清司
出荷式新米積んで貨車過ぐる 東松島市あおい/大江和子
窯出しに汗のしたたる残暑かな 石巻市新館/高橋豊
温暖化世界に及ぶ残暑かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
風邪のこす五体反らせて受く秋日 石巻市開北/ゆき
秋刀魚食ふ内臓しっぽの先までも 石巻市流留/和泉すみ子
米不足何を騒ぐか稲の秋 石巻市桃生町/佐藤俊幸
秋天やMLBの大記録 石巻市小船越/堀込光子