【石母田星人 選】
百人の喜寿のつどひや大花野 石巻市流留/和泉すみ子
【評】大広間には懐かしい顔がそろった。いつもの同窓会ではなく喜寿を祝う会。季語大花野には、この年代特有のはつらつとしたパワーがこめられている。
柿剥けば夕日しづかに落ちにけり 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】柿をむくことと落日に因果関係はない。だが妙に納得する。柿に触れたことで、心に生まれた夕日なのかもしれない。当然、子規の句「柿くへば~」を思ったが、無理ない連想の飛躍と詩性に魅せられた。
猫じゃらし稚児行列の崩れがち 石巻市桃生町/西條弘子
【評】色鮮やかな衣装で練り歩く稚児たち。初めは神妙でもやがてこうなる。季語猫じゃらしが効果的。
百態の鯨波に釣瓶落としかな 石巻市中里/佐藤いさを
客船の丸い窓から天の川 石巻市小船越/芳賀正利
小窓より出入り幾度秋茜 石巻市元倉/小山英智
秋暑しさくら色して鍋の蛸 石巻市中里/川下光子
あめ色の無花果もある漁師飯 石巻市流留/大槻洋子
初秋刀魚焦げし煙に涙かな 石巻市門脇/佐々木一夫
小春日や塔に風待つ風見鶏 松島町磯崎/佐々木清司
けだるさの漂ふ秋のトランペット 石巻市駅前北通り/小野正雄
つばひろの佐藤忠良夏帽子 石巻市蛇田/石の森市朗
引っ越しに梱包されて君子蘭 多賀城市八幡/佐藤久嘉
香を放つ津波に耐えし金木犀 石巻市新館/高橋豊
地震傷に塩をすり込む秋出水 石巻市広渕/鹿野勝幸
朝顔やのぼりのぼりて空に溶け 石巻市小船越/堀込光子
桃の皮赤子の肌のごと柔し 石巻市向陽町/成田恵津美
秋の空乗り継ぎまでの四十分 東松島市矢本/菅原京子
秋の雨電話の向こうに友の声 石巻市湊/斎田流雲
笛の音も遠き祭や秋の空 石巻市駅前北通り/津田調作
母歌う湯の町エレジー草の花 石巻市渡波町/小林照子
運動会赤白の玉ポップコーン 東松島市赤井/志田正次
木犀の香りが消えて秋深し 石巻市水押/阿部磨
二度咲の薔薇に小雨の薄化粧 石巻市水押/小山信吾
神無月どこへいったかあの暑さ 石巻市三ツ股/浮津文好