【石母田星人 選】
アルペジオ爪弾く先にオリオン座 東松島市赤井/志田正次
【評】和音を散らしてギターを奏でる。一音一音に共鳴してまたたくのは冬の星座オリオンの星々だ。
秋ゆふべポニーテールの揺れにけり 東松島市矢本/菅原京子
【評】話しながら通り過ぎる生徒。暗くてもう顔ははっきりしない。ただ影と化した髪の動きは分かる。髪の揺れだけに絞ったことで独特の雰囲気を生んだ。
輝ける風にゆだぬる芒の穂 石巻市駅前北通り/小野正雄
【評】単なる芒原の描写ではなく、芒を擬人化した作りだ。この芒にとって風は輝ける存在なのだろう。己が身を委ねたくなるのも分かる。しかし風は空気の移動にすぎない。本当に輝いているのは自分なのだ。
時雨忌やゆつくり老いる島の松 松島町磯崎/佐々木清司
晩秋の大河の底に沈む錨 石巻市小船越/芳賀正利
壺の碑の刻の連なる神無月 石巻市丸井戸/水上孝子
天高く欅は樹齢八百年 石巻市渡波/阿部太子
夕しぐれ巨木を降ろすロシア船 石巻市中里/佐藤いさを
吊るされて鮟鱇の目にひと雫 多賀城市八幡/佐藤久嘉
慰霊碑の遥かなる上鳥渡る 石巻市新館/高橋豊
海を見に夫の遺品の冬帽子 石巻市蛇田/石の森市朗
新しき眼鏡にかへて文化の日 石巻市広渕/鹿野勝幸
初舞台果てし五人へ秋夕焼 石巻市流留/大槻洋子
冬波を目に噛みしめてにぎり飯 石巻市門脇/佐々木一夫
それぞれの子に持たせやる栗の飯 石巻市桃生町/西條弘子
缶見れば蹴りたくなるも日向ぼこ 石巻市桃生町/佐藤俊幸
山霧の広がるまちにくらしおり 石巻市流留/和泉すみ子
刈田行く気動車二両睦まじく 石巻市駅前北通り/工藤久之
祖母の部屋手摺り取り付け吊し柿 石巻市元倉/小山英智
寝そべって押しよせてきし星月夜 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
おしゃべりなカラスに残す柿一つ 石巻市湊/斎田流雲
仏壇のりんごひとつの香る部屋 石巻市渡波町/小林照子
遠い日の母の摺りたるとろろ汁 東松島市あおい/大江和子
虫の声聞かば幼なの夢想ふ 石巻市駅前北通り/津田調作
思い出は課外授業のイナゴ捕り 石巻市向陽町/成田恵津美