短歌(12/15掲載)

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【斉藤 梢 選】


日の暮れは物悲しさがつきまとうあすも生あることを知りつつ   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】短歌は、寂しさや悲しさという人の心情を受け入れる詩型だと、この一首に出合ってあらためて思う。「日の暮れ」がだんだん早まって、薄闇から闇へと移る時「物悲しさがつきまとう」と作者は詠む。表現しなければ、この感情は心の中に留まって、どうしようもないものになるだろう。けれども、言葉を選んで詠むことで、心が調うこともある。短歌は、時に話し相手になり、かけがえのない友にもなるのだから。この歌を読んで「私もそう」とつぶやく人も多いのでは。下の句は、読む人の心に深く響く。


白菜は翡翠かなとも白磁とも包丁持ちつつ魅入る我なり   東松島市矢本/川崎淑子

【評】一株の白菜だろうか。作者はその佇まいに見とれている。厨歌ではあるが、料理する前の白菜と向き合っている時の感慨を詠んでいて独特。「包丁持ちつつ」の行為の表現があることで、その様子がよく伝わり、白菜を切る前の静謐な空気が一首に漂う。みずみずしい美しさに心を寄せて表現している「翡翠かなとも白磁とも」。画家のような眼差しの作者。


雨上がり西日を浴びて鰯雲素晴らしきかなこの世のロケは   東松島市矢本/奥田和衛

【評】「素晴らしきかな」という心からの感嘆がいい。西日を浴びた「鰯雲」との邂逅を、幸と思える作者。この日この時の空は美術館のよう。「この世のロケは」としたところがこの歌の魅力。


来年の手帳を開き七月に還暦と記しクスッと笑う   石巻市水押/佐藤洋子

【評】特別な思いを抱いて来年の手帳を開く作者。まず「還暦」と記して、六十年を生きてきたのかと自身に語りかけているのでは。「クスッと」に実感がある。


泡立草のまばゆき戦ぎえんえんと原は金秋の感嘆詞なす   石巻市開北/ゆき

人の顔斯くも厳しくなるものか土俵の力士この一瞬に   東松島市矢本/畑中勝治

紫陽花は落葉の時季(とき)を迎えてもなお葉を出して生きるを示す   東松島市赤井/佐々木スヅ子

山肌に楚々と咲きいる山薄荷(ヤマハッカ)初めて目にし心震える   石巻市桃生町/千葉小夜子

人間の命の重さ軽視する事件多発に不安がよぎる   石巻市不動町/新沼勝夫

来し方に宝石などとの縁無くも磨き合ってのダイヤモンド婚   石巻市蛇田/菅野勇

ステージ4よと笑顔で話すリハ友に救われ日々を生きる我なり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

物置の雪掻き道具確かめる今朝は冷え込み初霜降りる   東松島市赤井/茄子川保弘

日射し浴びかもめ並びて日向ぼこ港は今日も淋しさ一杯   石巻市門脇/佐々木一夫

初めての舞台の果てて穏やかな秋夕焼けに山は輝く   石巻市流留/大槻洋子

亡き夫の部屋に貼られたカレンダーめくられることなし入院日より   石巻市山下町/近藤教子

道端の名もなき花に足を止めちょっとしゃがんでちょっとお喋り   石巻市西山町/藤田笑子

長い顔何を言われても長い顔良い人ぶって丸くしません   石巻市桃生町/佐藤俊幸

オクラ似のカタバミのさや小(ち)さけれど弾けるさまは花火に似てをり   東松島市矢本/田舎里美