短歌(12/29掲載)

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【斉藤 梢 選】


陽だまりで葉ぼたんビオラ寄せ植えし迎える巳年の平和を祈る   石巻市錦町/山内くに子

【評】冬の「陽だまり」の暖かさ。作者は陽射しがあることに感謝しながら、寄せ植えをしている。「葉ぼたん」と「ビオラ」の取り合わせが冬の季節を伝えていて、植えている姿が見えるようだ。これからの冬の日々を植物たちと共に過ごそうという心持ち。そして、作者は心の中で祈る。祈りは、なかなか声に出しては言えない。だからこそ詠むのだろう。誰でもが平和を願うのだけれども、予期せぬ自然災害や事故、事件などが起こった今年を振り返り、あらためて「平和」のありがたさを痛感する師走。切に祈る「平和」。


顔に粉それぞれ違う幼子の個性むき出しのクッキーづくり   石巻市湊東/三條順子

【評】「顔に粉」の初句で、夢中になってクッキーを作っている様子が想像できる。幼子の小さな手がクッキーの生地をこねて、形を作ってゆくのを見守る作者。「個性むき出し」という捉え方と「それぞれ違う」の表現が呼応していて、幼子の個性を尊重する思いが一首に満ちる。創作の楽しくてゆたかな時間を残す歌。どんな形のクッキーが焼き上がったのだろう。


りんどうよ咲けば紫庭の中 秋を楽しむように咲きおり   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】庭に咲く「りんどう」の紫。蕾の時と咲いた時の雰囲気が違う「りんどう」。親しみをこめて「りんどうよ」と詠む初句がいい。下の句のような思いに至る作者の植物への優しい眼差し。秋がよろこぶ「紫」。


はるかな日従姉妹が母に編みくれしセーターは今吾(あ)を暖める   石巻市流留/大槻洋子

【評】この歌は読者をも暖めてくれる。「はるかな日」と「今」を結ぶ手編みのセーター。時が流れても残るものがあり、残しおく大切なものがある。


紺碧の海にいだかれ育つ海苔厚き黒藻が豊かにゆれて   石巻市門脇/佐々木一夫

早世の弟偲び今日の日は残したシャツ着て思い出の中   東松島市矢本/畑中勝治

病み終えていつもの靴にフィットした一歩前出て小石蹴飛ばす   石巻市二子/北條孝子

憂い事消えて見上げる冬の空舞う粉雪も花びらに見ゆ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

新米の一粒ずつに力あり日本の食ぞ天高き秋   石巻市あゆみ野/日野信吾

アルバムを捲りて老いを感じつつ若き姿に時間(とき)が甦る   女川町浦宿浜/阿部光栄

看護士の名を覚えるは特技なり呼びて親しみ深くなりたり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

病室の窓の下行く夜汽車見る仙石線か石巻行きの   石巻市羽黒町/松村千枝子

夕日受けもゆる紅葉の鮮やかさ吾(あ)の終生もこうありたきに   石巻市南中里/中山くに子

極月や松市の朝威勢よし場内に響く競り人の声   東松島市赤井/志田正次

実家からの甘い香りのラ・フランス伝わる真心かみしめほおばる   石巻市西山町/藤田笑子

朝の駅靴音響く人の群れ目覚めた街が動き出すなり   東松島市赤井/茄子川保弘

隣人にもらいし里いも煮っころがしに亡き夫の好物仏前に供う   石巻市高木/鶴岡敏子

澄みわたる入り日に映える飛行機雲くっきり描く一直線を   石巻市わかば/千葉広弥