短歌(1/19掲載)

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【斉藤 梢 選】


この年の喜怒哀楽の納まるか師走の夕空静かに広し  石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】師走の夕空を見上げて「静かに広し」と作者は感じた。師走は一年を締め括る時期でもあるので、なにかと慌ただしい。けれども、この日の空は穏やかな表情をしていたのだろう。2024年の一年間には、さまざまなことがあり、心も揺れ動いたけれど「喜怒哀楽の納まるか」と詠むことで、この日は心が平らかに落ち着いていることが伝わる。夕空と対話している作者の姿が見えるようで、顔を上げてこの世界を見渡すと、見えてくるものが確かにあることを教えてくれる一首だと思う。


枯れ葉踏む我が足ふさぐは たれ と問う冬の小径の大人の童話  東松島市矢本/川崎淑子

【評】作者が歩く小径には枯れ葉が積もっていて、ともすればその葉が歩みを邪魔する。「我が足ふさぐ」のは、いったい誰?と問う時に「枯れ葉」は「枯れ葉さん」として、童話の中に登場するのかもしれない。感性豊かな作者の「大人の童話」の続きを読みたくもなる。「枯れ葉」を詠む時に、何を感じてどう詠むかを追究して工夫すると、こんなにも広がる歌の域。


人なみに年が明ければ八十九蝸牛(かぎゅう)のごとく断捨離はじむ  石巻市高木/鶴岡敏子

【評】「年が明ければ八十九」に、等身大の作者が表現されていて「蝸牛のごとく」に、本当の心情がこもる。歳を重ねつつもこのように詠み継いでゆくことで、確かめることができる真実があり思いもある。


冬の星凍れる空に煌めいて夕暮れの街切り絵の如し  東松島市赤井/茄子川保弘

【評】煌めいている冬の星の美しさ。「切り絵の如し」という捉え方がいい。冷たくて澄んだ空気が感じられて、冬だからこその街の佇まいが印象的だ。


まぶた閉じ狭庭に海は遠くとも葉ずれの音はときに潮騒  石巻市開北/ゆき

朝の陽に庭の木々の葉光ってる昨夜も雨か日毎に寒し  東松島市矢本/畑中勝治

最後かなと言いつつ弾むお年玉八十路過ぎての決りの文句  東松島市赤井/佐々木スヅ子

水鳥の子らの引率は美(は)しき父 四羽並びて締まりこぎ出す  東松島市矢本/田舎里美

コロコロと一人綾取り毛糸玉相手いなくて続きが出来ぬ  石巻市西山町/藤田笑子

夕日受け鮮やかに染まるもみじ葉の遂に散り敷く師走の夕べ  石巻市南中里/中山くに子

爽やかな朝風頬を撫でて行き散歩の我に励ましくれる  東松島市矢本/奥田和衛

人生の登り坂をば海に生き老いし坂道妻と歩みおり  石巻市駅前北通り/津田調作

普通に食べ普通にしゃべり普通とは何とすばらしきことであるかと  東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

コスモスの種を拾ひて微笑みしあの日散らした風はいづこへ  石巻市門脇/佐々木一夫

一瞬のブレーキ踏めず事故おこす同じ世代のかなしいニュース  石巻市桃生町/佐藤俊幸

遠浅の海まで走った浜はなく高くそびえる堤防のあり  石巻市流留/和泉すみ子

「美しく老いよ」の恩師のはなむけも生きてるだけでもう精一杯  石巻市向陽町/成田恵津美

遠き日にプレゼントされしセーター着て八十路の我は帰省の孫待つ  石巻市蛇田/菅野勇