短歌(2/2掲載)

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【斉藤 梢 選】


見ぬふりの掃除の手抜き冬の陽がここもここもと嬉々と指差す   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】冬の暮らしを詠む一首。「見ぬふり」をしているけれど、冬の陽が部屋に差し込むと、見えてしまうものがある。「掃除の手抜き」の具体が、とても正直。寒い時期は、いろいろなことが面倒になったりもするので、この歌を読んでそうそうと頷く人も多いのでは。「冬の陽が」「指差す」という捉え方がいい。少し意地悪なようにも思われる「指差す」だけれど「嬉々と」の表現で、陽射しの明るさがクローズアップされて、汚れや埃に気づきつつも、作者は暖かさに包まれているのかもしれないと想像できて、楽しくもある。


生きている事の喜び賀状書く歳月は友を減らしゆけども   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】年賀状を書きつつも、生きていればこその事と実感する作者。届けることができて、受け取ることができるという生の実感。下の句で表わしている現実があるからこその、上の句の「喜び」の深さと、慎みを含む「喜び」。この時の気持ちに真に添う言葉として選んだのが「減らし」だろう。疎遠になった友のこと、亡くなってしまった友のことをも思いつつ書く賀状。


新しき年を喜ぶ子らの顔見れば嬉しも涙浮かぶほど   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】この一首を読んだ人の心に浸透してゆく「涙浮かぶほど」という感慨。「子らの顔見れば」に、新年を迎えた作者のあたたかい眼差しを見る。「嬉しも」という純朴な感情表現に胸があつくなる。


正月飾り華やぐ茶の間にかの波を知る柱、障子鎮もりてをり   石巻市開北/ゆき

【評】作者もまた「かの波」を忘れていないことを伝えている「かの波を知る」。「華やぐ」と「鎮もる」の言葉が、東日本大震災発生からの年月と今を語る。


監督が選手に飛ばすげき受けてたすきリレーが記録を作る   石巻市水押/佐藤洋子

新しき年の面舵(おもかじ)師のことば上手に描こうと決して思うな   石巻市湊東/三條順子

生きているだけで幸せ我が身体もてあましつついとおしくもあり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

気が付けば古い葉書となりにけり不足を買いに行くも楽しや   石巻市二子/北條孝子

畑にて本年最後の野菜摘み帰りに低く頭を下げる   東松島市矢本/奥田和衛

海鳥のV字編隊飛んで行く朝日に白い体光らせ   東松島市矢本/畑中勝治

境内の子等のカウント大声で新年祝う里の氏神   東松島市赤井/茄子川保弘

ひたすらに歩いた走った生きてきたつまずきながら我が人生を   石巻市流留/和泉すみ子

電車の音夜更けの静けさ朝が来る変わらぬ一日(ひとひ)笑顔で過ごそう   石巻市西山町/藤田笑子

散歩道小さき祠に足止めて子らの安寧祈りまた歩く   女川町浦宿浜/阿部光栄

にぎやかな時はすぐ果て静かなり再びしまうチョコミントアイス   石巻市流留/大槻洋子

間合とり鴨たち止まる吾(あ)もとまるにっこりゆずりて引き返す道   東松島市矢本/田舎里美

「すみませんチクリとします」看護師さんやさしい言葉に安らぎ覚ゆ   石巻市蛇田/菅野勇

初春の天空飛ぶや鳥達の姿まぶしく心高ぶる   石巻市不動町/新沼勝夫