【石母田星人 選】
山眠る星のすだれに身を委ね 石巻市湊/斎田流雲
【評】「山眠る」は静まり返った冬山を擬人化した季語。多くは昼の景で用いられるがここは夜の様子。季語の本意とはやや外れるが、夜空にもたれ本格的に眠る山も面白い。「星のすだれ」の詩的表現に感服。
青年の眼の透き通る弓始 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】新年の神社での神事か学校行事だろう。詠むべき多くの句材がある中、弓を絞る青年の顔に注目。彼の眼が透き通った瞬間、矢が放たれたに違いない。
この冬は星との会話成り立ちて 石巻市渡波/阿部太子
【評】西に宵の金星、天頂に木星と火星。この冬は惑星たちが勢ぞろい。存在感ある惑星は雄弁なのだ。
春よ来い鳶の高舞ふ被災の地 石巻市蛇田/石の森市朗
思ひきり手足を伸ばす霜の朝 石巻市桃生町/西條弘子
四股をふむ余生か冬芽よく尖る 石巻市開北/ゆき
目に沁むや青き川面の初景色 石巻市中里/川下光子
白鳥の列乱れずに行き帰り 石巻市広渕/鹿野勝幸
初日の出名もなき山に昇りけり 石巻市小船越/芳賀正利
初日の出今年も命貰い受け 石巻市門脇/佐々木一夫
春を待つ今年も同じ農日誌 松島町磯崎/佐々木清司
寒の入り気合い込めたる味噌仕込み 東松島市赤井/志田正次
冬深し男文字のはね強し 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
0乗が1なる不思議寒卵 石巻市小船越/堀込光子
ささくれていいと赦さる冬の海 多賀城市八幡/佐藤久嘉
仏前に一番さきに七日粥 石巻市新館/高橋豊
娘らと七草とんとん女正月 石巻市渡波町/小林照子
背のびして夫のかわりの年用意 石巻市流留/大槻洋子
桃太郎孫と添寝の炬燵かな 石巻市元倉/小山英智
湯婆やほんわりぬくい夜中二時 石巻市流留/和泉すみ子
雪積るみんな隠れてのっぺらぼう 石巻市駅前北通り/津田調作
葦の陰鴨の憩える汽水凪 東松島市矢本/田舎里美
土ゆすって発芽まだかと冬うらら 石巻市桃生町/佐藤俊幸
年新た歳に抗う気になりて 東松島市矢本/菅原京子
霜柱ザクザクザクと仁王立ち 石巻市桃生町/西條和江