俳句(3/23掲載)

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【石母田星人 選】


ひと駅は短編ひとつ雪列車   松島町磯崎/佐々木清司

【評】句を読むとき、書かれずに省略されたものを探しながら読むと楽しい。この句では長い停車時間が隠されている。文庫本の短編を読めるほどの長さだ。動き出した安堵感とともに窓外の雪の深さも分かる。


寒明けや話の弾む精米所   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】今なら「コメの値段はなぜ高い」などという内容か。これはそんな時事を抜きにして味わいたい。清らかな寒明けと精米の音に語らい。喜びの空間だ。


薄氷のひびに入り込む流れ雲   石巻市駅前北通り/小野正雄

【評】震災以降に味わった思いだろうか。それとも実景なのか。解釈すると妙味が半減してしまう句だ。


震災のあの夜の星がのしかかる   多賀城市八幡/佐藤久嘉

末黒野や大川小に竹あかり   石巻市新館/高橋豊

3.11鎮めしものの込み上げる   石巻市小船越/堀込光子

十四年あれこれ過る春の海   石巻市向陽町/成田恵津美

いくたびも無念の春や浜掻かれ   石巻市広渕/鹿野勝幸

供養碑の浜防風は友の声   石巻市のぞみ野/阿部佐代子

寒昴へ呼ぶ声穏し十四年   石巻市開北/ゆき

十四年黙祷の海春の雪   東松島市あおい/大江和子

日高見や濁り初めたり雪解川   石巻市中里/佐藤いさを

勢いを増して白波雪解川   石巻市元倉/小山英智

つぶやきのような香りよ冬木の芽   石巻市流留/大槻洋子

登校の坂を転げて雪の玉   石巻市小船越/芳賀正利

踏青や夢のひとつを聞いてみる   石巻市丸井戸/水上孝子

一歩から散歩再開風光る   石巻市蛇田/櫻井節子

薄氷張りてバケツの小宇宙   石巻市渡波/阿部太子

雛の間に晴着三枚競いおり   石巻市流留/和泉すみ子

初講習海へ漕ぎ出す櫂もらう   東松島市矢本/田舎里美

木の芽時引き出しの奥肩もみ券   石巻市湊/斎田流雲

水仙や笑顔のままで今朝もあい   石巻市門脇/佐々木一夫

橋を行く一両電車木の芽晴   石巻市桃生町/西條弘子

本棚の眠る画帳や冴返る   石巻市中里/川下光子

福寿草枯れ草かぶりほっこりと   石巻市真野/高橋としみ