【石母田星人 選】
ひと駅は短編ひとつ雪列車 松島町磯崎/佐々木清司
【評】句を読むとき、書かれずに省略されたものを探しながら読むと楽しい。この句では長い停車時間が隠されている。文庫本の短編を読めるほどの長さだ。動き出した安堵感とともに窓外の雪の深さも分かる。
寒明けや話の弾む精米所 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】今なら「コメの値段はなぜ高い」などという内容か。これはそんな時事を抜きにして味わいたい。清らかな寒明けと精米の音に語らい。喜びの空間だ。
薄氷のひびに入り込む流れ雲 石巻市駅前北通り/小野正雄
【評】震災以降に味わった思いだろうか。それとも実景なのか。解釈すると妙味が半減してしまう句だ。
震災のあの夜の星がのしかかる 多賀城市八幡/佐藤久嘉
末黒野や大川小に竹あかり 石巻市新館/高橋豊
3.11鎮めしものの込み上げる 石巻市小船越/堀込光子
十四年あれこれ過る春の海 石巻市向陽町/成田恵津美
いくたびも無念の春や浜掻かれ 石巻市広渕/鹿野勝幸
供養碑の浜防風は友の声 石巻市のぞみ野/阿部佐代子
寒昴へ呼ぶ声穏し十四年 石巻市開北/ゆき
十四年黙祷の海春の雪 東松島市あおい/大江和子
日高見や濁り初めたり雪解川 石巻市中里/佐藤いさを
勢いを増して白波雪解川 石巻市元倉/小山英智
つぶやきのような香りよ冬木の芽 石巻市流留/大槻洋子
登校の坂を転げて雪の玉 石巻市小船越/芳賀正利
踏青や夢のひとつを聞いてみる 石巻市丸井戸/水上孝子
一歩から散歩再開風光る 石巻市蛇田/櫻井節子
薄氷張りてバケツの小宇宙 石巻市渡波/阿部太子
雛の間に晴着三枚競いおり 石巻市流留/和泉すみ子
初講習海へ漕ぎ出す櫂もらう 東松島市矢本/田舎里美
木の芽時引き出しの奥肩もみ券 石巻市湊/斎田流雲
水仙や笑顔のままで今朝もあい 石巻市門脇/佐々木一夫
橋を行く一両電車木の芽晴 石巻市桃生町/西條弘子
本棚の眠る画帳や冴返る 石巻市中里/川下光子
福寿草枯れ草かぶりほっこりと 石巻市真野/高橋としみ